「『情けは人のためならず』が間違った使われ方をしている」という話は、多くの人が一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
今回は、大学時代を含めた合計10年間、中学生の受験指導に関わってきたヤマシタが「情けは人のためならず」の本当の意味を教えちゃいます!
実は、この有名なことわざの元ネタには、意外な続きがあるんですよ…(フフフ)。では、さっそく見ていきましょう!
「情けは人のためならず」ってどういう意味ナンスカ!?
みなさん、何にも考えず、純粋に、言葉のままにこの言葉を読んでみましょう。さて、いったいどんな意味になりましたか?
私が「情けは人のためならず」という言葉に初めて触れたのは小学生の頃でしたが、その時は「情けをかけると、その人のためにはならない」かなと思いました。
本当の意味を知った今見ても、これは間違っちゃうでしょ~と思ってしまうくらいです。
そんな「情けは人のためならず」を辞書で調べてみると、このようになります。
情けは人(ひと)の為(ため)ならず
情をかけておけば,それがめぐりめぐってまた自分にもよい報いが来る。人に親切にしておけば必ずよい報いがある。
補注:情をかけることは,かえってその人のためにならないと解するのは誤り。
出典:「日本国語大辞典 第2版」(平成12~14年 小学館)
辞書にも間違いやすい使い方が指摘されていますね!
文化庁が平成22年におこなった「国語に関する世論調査」でも、正しい意味を答えられたのは約46%という結果に! 日本人の半分は間違って使っていたんですね。
これほど多くの人が間違ってしまうのは、どうしてなのでしょうか。
どうして「情けは人のためならず」は間違いやすい?
ナンスカの「#言葉の意味」でも取り上げられているように、日本語には間違いやすい使われ方をしている言葉がたくさんあります。大学時代「日本語日本文学科」で学んだ者としては、日本語がすごく難しいという事と「古文」を勉強するタイミングが原因なのでは? と考えます。
「古文」を習うのは中学生になってから
みなさんは「古文」は好きでしたか?
品詞分解、日本語訳、複雑な文法…中高国語の教員免許をとった私ですが、中学校の頃は本っ当に大嫌いで「この世から消えてほしい」と思っていましたよ!(笑)
「情けは人のためならず」でも、古文の文法や品詞がポイントになります。
この「ならず」は、【断定の「なり」】+【打ち消しの「ず」】です。これは、「~でない」という意味になるので「人のためでない」と訳さなければいけません。
しかし、こういったことわざは小学校3~4年の教科書で目にしますので、間違って覚えてしまうと中学校で「古文」を習うまで引きずります。
中学生になったらなったで、突然登場する難しい古文に悪戦苦闘し、そのうち「古文は捨てる!」なんて思ったりして…そんなふうに、正しい意味を解釈するタイミングがずれてしまうのではないか、と思います。
それでは「情けは人のためならず」の全文を見てみよう!
実はこの「情けは人のためならず」、旧五千円札にも描かれた新渡戸稲造(にとべいなぞう)が作った詩の一部分なんです。
「情けは人のためならず」は、大正4年発売の『一日一言』に書かれています。これは本当によい本で、人生に役立つ言葉が366日分書いてあります。しかも、言葉が分かりやすくて読みやすい! 気になった人は是非読んでみてください。
それでは、この『一日一言』の「4月23日“恩を施しては忘れよ”」全文を読んでみましょう。
施せし情は人の為ならず おのがこゝろの慰めと知れ
我れ人にかけし恵は忘れても ひとの恩をば長く忘るな
出典:『[新訳]一日一言:「武士道」を貫いて生きるための366の格言集」 新渡戸稲造著』
情けは他人のためではなく自分自身のためにかけるものだ。だから自分が他人にした良いことは忘れてもいい。でも、人から良くしてもらったことは絶対に忘れてはいけないよ、という意味ですね。
辞書に載っている「情をかけておけば,それがめぐりめぐってまた自分にもよい報いが来る」というのは、新渡戸稲造の詩を元ネタに、より分かりやすく、読み手の教訓になるように改変されたのではないかと思います。
「情けは人のためならず」の本当の意味は、情けは、自分の心の満足のためにかけるものであって、見返りを求めるものではない。ということになりますね!
本当の意味も大事だけど「どんな気持ちで使うか」が一番大事!
「情けは人のためならず」の全文を読み解くと、新渡戸稲造が伝えたかった大切なことが分かるような気がしますよね。
とはいえ、一番大切なことは使う人間の心の在り方だと私は思いますよ。本当の意味を知ろうが知るまいが、その言葉で相手を傷つけるなら同じことですからね。
みなさんもこの機会に正しい言葉の意味を調べて、使ってみてはいかがでしょう!
まさに、情けは人のためならず、ってね!