みなさん、こんにちは。半分台湾人のSeikyoです。
今回は前回に続いて、台北市立美術館のミュージアムショップにて2023年に販売された、ちょっと前衛的な靴下についてご紹介したいと思います。
画家の生涯と絵画作品について紐解いていきながら、早速見ていきましょう!
美術館所蔵の絵画を「身につけるもの」に
台北市立美術館は2011年から毎年、館内に所蔵してある作品を原点に、アートを人々のより身近なものとして親しんでもらえるような商品を開発し、いくつも世の中に送り出してきました。その中でも近年は特に、ファッションアイテムとして人気の「靴下」が注目を浴びています。
今年は再びデザイナーズブランドの「+10・加拾」とコラボレーションすることになった美術館は、軽やかな毛糸を工夫して絵画の抽象的な筆のタッチを表現することにチャレンジし、合計4種類のアーティスティックでかわいらしい靴下をプロデュースしました。「+10・加拾」のデザイナーは長年靴下の製造に関わってきた豊富な経験を活かして、素材と織り方を絶妙に活かして、美術館の絵画作品を「身につけるもの」に変身させることに成功しました。
2つの抽象画を、「糸」で表現する
今回選定された作品は、陳幸婉の「作品8220」と薛保瑕の「起始」という、どちらも抽象画の作品となっています。
陳幸婉(1951 - 2004)は台湾の女性抽象画家で、フランスや日本、スイスなどに滞在して創作活動を行った経験を持ち、1984年に台北市立美術館主催の第一回「中国現代絵画新展望」で受賞した経験を持っています。長い間、サイズの大きい抽象画を中心に創作していましたが、徐々に半「オートマティスム」と呼ばれる技法を用いて、石膏や網メッシュ、ガーゼなどを作品に応用し、異なる素材のものを相互に重ね合わせることで、平面的な絵画作品の「物質性」を追求してきました。
「作品8220」はまさに石膏とアクリル絵の具をハイブリットに扱かった作品で、キャンバス上にいくつものペイスト状の有機的なフォルムを残しています。濃い目の緑と明る目の緑で描かれた四角同士の隙間は均一ではなく、その中に黄色やオレンジなどの暖色系のカラーや淡いブルーが不規則に描かれており、彼女ならではの独特の世界観を醸し出しています。
絵画作品に残る独特の素材の質感が伝わるようなビジュアルの世界観を靴下の生地でも表現すべく、局所に透明の生地を編み込んだり、靴下をあえて「裏返して魅せる」という逆転の発想で、靴下の裏地の飛び出した糸などを使って筆のタッチを表現するという、とても趣のある靴下となっています。
薛保瑕(1956 -)も同じく長年にわたり抽象画の創作に携わり、いくつもの段階にわたる制作過程を発展させてきました。抽象の定義の弁証、抽象芸術の発展の可能性と、いかにして絵画の中で現代生活を描くのかを作品を通して探ってきました。彼女の作品では、感性の触発と理性の哲学的思考が反映されており、その時々の「命の有り様」を解釈しています。
作品「起始」(2010)は、彼女が生死の間を彷徨った経験から、新しい一歩を踏み出した代表作です。この作品は三つのパートからなり、一番左の黒と紫、青を混ぜ合わせたパートから、真ん中の淡い青と白が交わる部分、そして一番右が空色を一面に使っており、明るくて前向きに感じられるカラーで生き返った喜びを表現しています。
素手で書かれた九つの異なる大きさの円が、自由かつ不規則にキャンバス上に点在しており、作品全体にリズム感を与えています。靴下のデザインでは3つの異なるパートの配置がそのまま転用され、生地の紋様を使って作品の抽象表現をリメイクしています。
作品と巡り会った記憶を思い出させる
アートを生活の中に取り入れる方法はいくつもある中で、台北市立美術館は美術館に訪れた時に、展示やアーティストの作品そのものを見ること以外に、「ミュージアムショップについでに寄ってみる」というのが来訪者の体験設計の一部として捉えられており、一つでもグッズを持ち帰って普段の生活でさりげなく使うことで、あの日に作品と出会った瞬間を思い出せるような商品の開発に力を入れているのが、これまで紹介してきた様々なグッズを通して伺うことができました。
今回は靴下という身につけるものを通して、画家の想いが最終的にファッションアイテムとなり、単なる「絵画」という枠を超えて、異なる形で人々の生活に溶け込みました。新たなコラボの可能性を探り続ける台北市立美術館ですが、今後のミュージアムショップの新しい情報にも注目していきたいと思います。
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