クリーム色のボディに白い帆。人間よりもはるかに大きくて、まるで昆虫のように砂浜を歩く、生きもののような不思議な作品。
オランダのアーティスト テオ・ヤンセン氏による作品、「ストランドビースト」です。今、このストランドビーストたちが大集合し、実際の動きも間近で体験できる展覧会「テオ・ヤンセン」展が千葉で開催されています。
"砂浜の生命体"ストランドビーストが10体以上大集合
会場は、千葉みなと駅から歩いて10分ほど、海の近くにある千葉県立美術館です。会場には、こうした巨大なストランドビーストたちが10体以上展示されています。
まるで生きもののような「ストランドビースト」とは?
テオ・ヤンセン氏は、”現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ”とも称されるオランダ出身のアーティスト。デルフト工科大学で物理学を専攻し、1975年に画家に転向。1990年からは「ストランドビースト」の制作を開始し、現在まで30年以上制作を続けています。
「ストランドビースト」という名前は、彼による造語で、オランダ語で「砂浜の生命体」の意味。プラスチックチューブを組み合わせて作られ、風をエネルギーにして生きもののように動きます。10年ほど前には、製薬会社のテレビCMでも取り上げられ、そこで目にした方もいらっしゃるかもしれません。
ボディは、プラスチックチューブにペットボトル、結束バンドなど、ほとんどがプラスチックでできているにも関わらず、生きものを感じさせるのは不思議な感じもしますよね。
この、生きものらしい動きのもとになるのは、「ホーリーナンバー(聖なる数)」として導き出された動きの機構。回転の動きが、滑らかな歩行の動きに変換されます。なんと、コンピュータで1500通り以上の組み合わせをシミュレーションし、最も生物らしい動きを見せるように割り出されたそうです。
では、展示されているビーストたちから特徴的なものを見てみましょう。
個性豊かなストランドビーストたち
《アニマリス・リジデ・プロペランス》(1995)
こちらは、最初期に制作された作品。「ホーリーナンバー」から導き出した脚をもち、大きなプロペラが風を受けて回転することで横に歩く作品です。机上で導き出したアイデアを現実世界につくりだす試行錯誤の跡も見られます。
《アニマリス・ムルス》(2017)
こちらは、ホーリーナンバーによる脚とキャタピラの脚が共存する作品。大きさの迫力とともに、2種類の異なる脚の組み合わせの美しさも楽しい作品です。会場では、こうした作品が生み出されるまでのスケッチも展示され、構造的な美しさも体感できます。
《アニマリス・オムニア》(2018)
歩くだけでなく、多くの機能をひとつの身体に集結させた作品です。尻尾を振ってコミュニケーションをとったり、ハンマーで杭を打って身体を支えたり。さらに、水を検知して避けたり、胃袋に空気を溜めるなど、複数の進化した機能を見せます。
こうしてビーストたちが進化していく様子は、「進化系統樹」にもまとめられています。生き残るために進化していく様子は、本物の生きもののようですね。
巨大なビーストたちが、目の前で動く!動かせる!
巨大なビーストたちは迫力がありますが、やっぱり実際に動いているところを見てみたいですよね。会場では、ビーストたちの動きを間近で見ることもできるんです。
大迫力の巨大なビーストの実演「リ・アニメーション」
毎日開催されているのが、「リ・アニメーション」というイベント。展示されている動かないビーストたちが化石のような状態であるのに対して、「リ・アニメーション」は、そこに再び命を吹き込む「再生」を意味します。3体の巨大なビーストから1-2体を、1時間〜1.5時間に1回程度、解説とともにその動きを見られるんです。
《アニマリス・オムニア》のリ・アニメーションでは、帆を動かしたり、しっぽを振ったり、杭を打ったり…と、様々な機能を目の前で見ることができます。
でも、なんといってもやはり、巨大なビーストが目の前まで歩いて来てくれる姿は迫力!目の前で体験すると、親しみやすさと同時に、ちょっとした恐怖や畏敬の念も感じられるようです。
自分たちの手で動かせる体験も
さらに、会場中には、自分自身で触って動かせるビーストも。
体長4.3Mの《アニマリス・オルディス》をゆっくりと押したり引っ張ったりすると、脚がうごき、歩行させることができます。大人の身長よりも大きな作品ながら、想像よりも軽く動かせるのに驚きです。
また、キット版の小さなビーストたちに団扇や扇風機の風を当てて動かす体験もできます。
ストランドビーストたちが生まれた背景とは?
こうしたビーストたちが生まれた背景には、オランダの土地特有の課題があったようです。
テオ・ヤンセン氏は、ストランドビーストを手掛ける前にも、現実と想像の境界を曖昧にし、既存の価値観にとらわれない視点を観る人に気づかせようとする作品を手掛けてきました。
オランダの国土は海抜よりも低い土地が多く、古くから領土を守る対策が行われてきた土地ですが、1990年ごろ、テオ・ヤンセン氏は、気候変動による海面上昇問題に対応する案として、生命体を砂浜に放ち、それらが砂丘を作ることで海岸線を守るという作品を構想します。この構想が、ストランドビーストという「砂浜の生命体」につながっていったのだそう。
風という自然エネルギーだけで動き、新しいビーストを制作する際には以前に制作したビーストのパーツをリユースするなど、作品の中にもエコロジーに関する視点が反映されています。
環境問題やエネルギー問題について、直接的に訴えるのではなく、アートを通じて提案し、見た人がそれぞれに解釈し、自分のできることにつなげて欲しいというメッセージが作品に込められているようです。
まとめ
2023年12月3日には、日本で初となる、一般の参加者もビーストの隣を歩ける海岸歩行イベントも国内で初開催されます。
テオ・ヤンセン氏は、「砂浜で感じる満足感や歓びを共有できればと思います。また、イベントで井ビーストたちと一緒に歩いたみなさんも、環境問題などに気づくのではないでしょうか。」と述べました。
この新しい生きものと会い、その動きを目の前で体験してみませんか?「テオ・ヤンセン展」は、千葉県立美術館で、2024年1月21日 (日)まで開催されています。
展覧会情報
千葉県誕生150周年記念 オランダ文化交流事業 テオ・ヤンセン展
公式サイト http://www2.chiba-muse.or.jp/ART/
会場 千葉県立美術館
会期 令和5(2023)年10月27日 (金曜日) から令和6(2024)年1月21日 (日曜日)
休館日 月曜日(ただし、1月8日(月・祝)は開館し、翌9日(火)が休館)、年末年始(12月28日から1月4日)
開館時間 午前9時から午後4時30分(入場は午後4時まで)
入場料 一般:1000円 高校生・大学生:500円