「暗い部屋」の中に何が見える? 即興性を含んだ写真から「見ること」を考える展覧会 | 即興 ホンマタカシ (東京都写真美術館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2023.11.03

写真家・ホンマタカシさんの個展「即興 ホンマタカシ」が東京都写真美術館で開催されています。

1999年に画一的な開発が進む東京郊外の風景を客観的な視点で撮影した写真集「東京郊外」で第24回木村伊兵衛写真賞を受賞したホンマタカシさん。日本の美術館では約10年ぶりの個展です。

「暗い部屋」の中に何が見える? 即興性を含んだ写真から「見ること」を考える展覧会(写真撮影:ぷらいまり)
写真撮影:ぷらいまり

「カメラオブスクラ」の原理に焦点を当てた展覧会

展示室に入ると、目の前の壁には穴が。中を覗くと、全体が見渡せない暗い部屋の中に写真プリントが浮かび上がって見えます。

「即興 ホンマタカシ」展 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「即興 ホンマタカシ」展 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

その暗い部屋をぐるりと囲むように明るい展示室が配置され、こちらの壁面には、様々な都市の風景を撮影した大判のプリントが、一部は上下が反転した状態で展示されています。ところどころ、実物とは異なる色合いになっていたり、ザラザラした質感が出ていたりと、一般的なカメラで撮影した写真とは違った雰囲気です。

「即興 ホンマタカシ」展 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「即興 ホンマタカシ」展 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

これらの写真は、「カメラオブスクラ」の原理に着想を得て、ピンホール・カメラの手法で撮影されたもの。本展では、1点を除いて、この手法で撮影された作品で構成されています。

「カメラオブスクラ」とは?

「カメラオブスクラ」は、ラテン語で「暗い部屋」を意味する言葉で、現在の「カメラ」の元になったもの。暗い部屋に小さな穴を開けると、その穴から外の景色が部屋の対面の壁に逆さになって投影される原理を利用した装置や部屋のことを指します。

本展で展示されているのは、ビジネスホテルなどの部屋そのものを、この「カメラオブスクラ」の原理からピンホール・カメラに仕立てて撮影された作品たちです。

カメラオブスクラを通じて 写真の歴史と都市について考える

会場では、ここ10年あまりに制作された作品のなかから〈THE NARCISSISTIC CITY〉〈Thirty-Six Views of Mount Fuji〉という2つのシリーズを中心とした約60点の作品が紹介されています。

〈THE NARCISSISTIC CITY〉は、世界各地の都市を撮影した作品群。都市の中にある建物をカメラに見立てることで、「都市によって都市を撮影する」試みです。こうした試みは、著名な建築家の建物や郊外の団地といった建築物を被写体にしたホンマさんの過去の作品との繋がりも感じさせますね。

左から《Mito Tower》、《Untitled》、《Untitled》、《Hermès, Tokyo》/ ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)
左から《Mito Tower》、《Untitled》、《Untitled》、《Hermès, Tokyo》/ ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)

今回の被写体には、丹下健三による「広島平和記念資料館」や、磯崎新による水戸芸術館のタワー、レンゾ・ピアノによる「銀座メゾンエルメス」などの名建築も数多く選ばれています。そうした著名な建築を、凡庸なビジネスホテルの部屋をピンホール・カメラにして撮影することも作品のコンセプトのひとつになっているそう。

大判の写真だけでなく、小さなインスタントフィルムに写し取った、写真ながら1点もののプリントも展示されています。

《Untitled》/ ホンマタカシ インスタントフィルムを使って撮影した作品も紹介されています。(写真撮影:ぷらいまり)
《Untitled》/ ホンマタカシ インスタントフィルムを使って撮影した作品も紹介されています。(写真撮影:ぷらいまり)

一方、〈Thirty-Six Views of Mount Fuji〉は、葛飾北斎による「富嶽三十六景」にインスピレーションを受けて制作された、様々な土地から富士山を撮影した作品。

《mount FUJI 17/36》、〈Thirty-Six Views of Mount Fuji〉より / ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)
《mount FUJI 17/36》、〈Thirty-Six Views of Mount Fuji〉より / ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)

富士山を被写体にした場合、被写体近くの部屋で撮影しても天気によっては見えない日があったり、逆に遠く離れた場所からでも特定の気象条件では撮影できたりと、「その時にしか撮れない」要素が多く見られます。

左から《mount FUJI 22/36》,《mount FUJI 23/36》、〈Thirty-Six Views of Mount Fuji〉より / ホンマタカシ<br data-src=同じ部屋から撮影されていますが、天候によって違った雰囲気となっています。(写真撮影:ぷらいまり)">
左から《mount FUJI 22/36》,《mount FUJI 23/36》、〈Thirty-Six Views of Mount Fuji〉より / ホンマタカシ
同じ部屋から撮影されていますが、天候によって違った雰囲気となっています。(写真撮影:ぷらいまり)

部屋を「ピンホール・カメラ」にする手法で撮影したり「窓からの風景」を撮影する試みは、過去に様々な写真家たちによっても試みられてきました。これに対して、「撮りたい被写体を決め、それが撮れる部屋を探してピンホール・カメラにする」というのがホンマタカシさんによる試みなのだそう。

「即興」の面白さを通じて「見ること」を意識する

今回の展覧会には「即興」というタイトルがつけられ、ピンホール・カメラの撮影の中で生じる想定外のアクシデントが写真に与える面白さにも着目しています。

例えば、メインビジュアルになっている写真のように一部だけが赤くなっているのも、空港のX線でフィルムが感光してしまったというトラブルによるものなのだとか。そうしたアクシデントを「失敗」ではなく、「面白いもの」として受け入れるのが特徴的です。

左から《The National Art Center, Tokyo》, 《New York》, 《New York》、〈THE NARCISSISTIC CITY〉より / ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)
左から《The National Art Center, Tokyo》, 《New York》, 《New York》、〈THE NARCISSISTIC CITY〉より / ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)

また、《Seeing Itself》は、6枚の鏡が宙に吊られた作品。その周囲は、東京とニューヨークの風景を撮影した天井から床面までの大判のプリントが囲んでいますが、それらの固定された写真も、揺らぐ鏡と鏡同士の映り込みによって、変化し続ける風景として目に入ってきます。

《Seeing Itself》/ ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)
《Seeing Itself》/ ホンマタカシ(写真撮影:ぷらいまり)

壁にあいた穴から作品を観る体験も、一定の距離からしか作品を観ることができず、一般的な写真の見方とは少し違った見方ですよね。

「僕にとっては”写真”=”見ることを考える”ということ」とお話されていたホンマタカシさん。「偶然」の要素も大きい撮影方法や、「即興」の要素を含んだ鑑賞方法を通じて、作品を見るわたしたちも、あらためて「見ること」を意識させられるようです。

ホンマタカシさん(写真撮影:ぷらいまり)
会場では《Robotic Choreographer》と人が一緒にパフォーマンスを行う映像も。(写真撮影:ぷらいまり)

「即興 ホンマタカシ」展は、東京都写真美術館で2024年1月21日まで開催されています。

参考:ホンマタカシの換骨奪胎: やってみてわかった!最新映像リテラシー入門 / ホンマ タカシ

展覧会情報

即興 ホンマタカシ

公式サイト  https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4540.html
開催期間   2023年10月6日(金)~2024年1月21日(日)
休館日    毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(12/29-1/1)
料金     一般 700円/学生 560円/中高生・65歳以上 350円
小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)、年間パスポートご提示者は無料/第3水曜日は65歳以上無料/1月2日(月)、3日(火)は無料。開館記念日のため1月21日(日)は無料

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

FOLLOW US

RELATED ARTICL

関連記事

SPECIAL

特集

HOT WORDS

CATEGORY

カテゴリ

何気ない毎日に創造性のエッセンスをもたらす日常の「なにそれ?」を集めました。
ちょっとしたアクションで少しだけ視野を広げてみると、新たな発見って実は身近にあるのかも。