EXILEやAKB48等のLEDを用いたステージ演出や、「America’s Got Talent(アメリカズ・ゴット・タレント)」での光るリボンを使ったパフォーマンスなど、テクノロジーとステージパフォーマンスを融合した表現で知られるクリエイティブ集団 MPLUSPLUS。
MPLUSPLUSのこれまでにないステージ表現や、パフォーマンス専用ロボットなどの独創的な作品はどのように生まれてきたのでしょうか。渋谷にあるシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]で「MPLUSPLUS「Embodiment++」」を開催中の、MPLUSPLUSの代表で、研究者でありアーティストでもある藤本 実さんにお話を伺いました。
多くの実験から生まれる、「こんなのできないかな?」を現実世界で実現する MPLUSPLUSの表現
MPLUSPLUSは、エンターテイメントのステージ演出のほか、2021年のパラリンピックの開会式や、2023年のWBC日本戦のオープニングイベントといった華やかなステージも手掛けています。全身にLEDのついた衣装で踊るダンサーや、LEDで様々な模様に変化する旗など、テレビやwebで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか?
ーーMPLUSPLUSの演出するステージでは、LEDを使った華やかな演出がとても印象的です。こうしたLEDを使ったパフォーマンスは、どういったところから着想されたのでしょうか?
自分が大学生の時の研究がはじまりです。でも、「光る衣装」がスタートではないんですよ。自分は大学に入る前からストリートダンスをやっていたんですが、ダンスの振り付けをしていると、似たようなステップを組み合わせるような作り方になってしまうんですね。
大学ではウェアラブルコンピューティングの研究室に入ったんですが、そこで、例えばコンピューターの力を使って、人間が体の色を変えたりできれば、今までとは全然違う新しい振り付けができるんじゃないかと思って。例えば、肘が見えず肩と手だけが見える振り付けとか、普通はそんな発想絶対出てこないじゃないですか。でも光を使ったらそれができるんです。
他にも、腕にLEDを3列つけて、力を入れると光る列が増えたり、光らせるLEDの数を変えることで身体が拡大・縮小するように見せたりとか。似たものの組み合わせしかできないと思っていた振り付けも、全然違った発想でできるんじゃないかという可能性を感じました。それでダンスに光の演出を組み合わせた《Lighting Choreographer》という作品を発表したのが会社のスタートになります。
ーーテクノロジーとの組み合わせで、身体の表現が拡張できるんですね。
力を入れたら光ったり、身体が拡大縮小したように見えたりするのは、アニメや映画のCG表現のようにも感じられます。実際にMPLUSPLUSのパフォーマンスを拝見した時にも、現実なのに、CGでしか表現できないような世界が目の前に広がるような、不思議な感覚がありました。
イメージは漫画やアニメ、CGからインスピレーションを受けることが多いですね。印象的なCGの映像を見るたびに、「現実にはどうやったらできるかな?」ということを考えるようにしています。そういうアイデアをストックしていくみたいな。
ーー「Embodiment++」の会場でもMPLUSPLUSが10年間に生み出した多くの製品に驚きました。それほどの多くの製品は、どのように生み出されているのでしょうか?
自分たちは多くのプロダクトを生み出しているんですけど、基本的にはその10倍くらい実験しています。「こんなのできないかな?」と、思いついたことは全部試しているかんじですね。たくさんミスして、しょうもないように見えることもいっぱいやって、そうした過程を経て制作しています。そういうアイデアをストックしていくみたいな。
光を”ダンサー”として捉える発想から生まれた、人間不在でつくりだす「身体性」と「躍動感」
CCBTで開催されているプログラムでは、MPLUSPLUSのプロダクトとともに、藤本実さん個人の作品として、ロボットがパフォーマンスを行う3作品が展示されています。それは、人がLEDを身につけて表現を拡張するMPLUSPLUSの表現とは違った印象を受けます。
ーー大学ではウェアラブルデバイスの研究をされていて、「光る衣装」がスタートではないとのことでしたが、どんな研究をされていたのでしょう?
最初は「無線加速度センサー」という、無線で加速度が取れるようなバッテリー内蔵のセンサーを研究室で作っていて、研究室では多くの人がその研究をしていました。
自分も、加速度を使って何ができるかを考えて、自分のダンスステップをセンサーで認識させて音楽を作る研究などをやっていました。
ーーやはり出発点にはダンスや音楽があるんですね。今回展示されている藤本さんの作品も、ロボットの振り付けが本当に音楽とピッタリとあっているのが印象的でした。
僕らは絶対音ありきですね。「音があってどうそれを表現するか」なんです。「映像に音を乗せる」という考え方とは全く違ったアプローチで、音からインスピレーションを受けて動きを作っていくという感じですね。
ーー音楽や身体の躍動感といったものが作品のベースにあるとのことですが、一方で今回はロボットがパフォーマンスを行う作品で、人間が出てこないのに驚きました。
2021年の藤本さんの個展で発表された《Humanized Light》という作品も、ホールのような広い空間でムービングライトを動かし、光だけで巨大な人間の動きを表現する作品でしたね。人間不在でパフォーマンスをするという発想はどういうところから生まれてきたんでしょうか?
LEDの”ピクセル”を使った表現の次に、ムービングライトを身体に付けて”光線”の表現をしたいって考えてたんですが、たくさん載せるのは重すぎて無理だったんです。でも実現したくて、ずっとそのことを考えていた時に、「あれ、ずっと身体に取り付けようとしていたけど、身体がなくてもいいんじゃない?ムービングライト自体が人間になれるんじゃない?」っていうのに気づいて。それに気づいた時、ものすごく頭が活性化したんです。
これを思い浮かぶのは自分しかいないなって思ったんですよ。照明って、一般的には舞台で”人を照らすためのもの”として使いますけれど、自分は”ダンサーとして動くもの”っていう発想で考えていたんですね。ムービングライトをダンサーのように考えている自分でなければ、それ自体が人間になるなんていう表現にはならない。
試してみたら、4つのムービングライトを人間の手足と同じ位置につけて動かすだけでも「生(せい)」を感じられたんです。そこから色々と実験をしてみると、光線を少し揺らすと存在感が出たり、音楽と組み合わせることで気配や人間味を感じられたりとか、色んな表現ができることを発見しました。
これまでは、パフォーマーがいないと表現できないと思っていたものが、やっと、人がいなくても「身体性」とか「躍動感」というものが表現できるようになったと思って。そこでやっとはじまったという感じですね。
ーー人間がいなくても「身体性」や「躍動感」を表現できるというのが大きな意味をもっているんですね。
今回展示されている作品も、それ以外の要素がそぎ落とされているようで、エンターテインメント的な側面とともに、藤本さんのアーティストである側面と、研究者である側面といった要素も感じられるように思います。
これまでは、パフォーマーがいないと表現できないと思っていたものが、これまで光を使った作品を多く作ってきましたが、自分のテーマは「光」じゃないんですよね。「動作」だったり「躍動感」だったりといったところに興味があって、それを表現するのに、光が一番動きを作りやすかったというのがあります。それを今回は、光を使わずにどこまでできるかというのに挑戦した感じです。そこでやっとはじまったという感じですね。
「生で見る体験」の感動を テクノロジーでどう生み出すか?
ーー藤本さんの表現は本当に幅広いですが、一方で、「躍動感」や「音楽」といった要素が、大学の研究室時代から現在まで一貫してベースにあるんですね。
制作のモチベーションに、はじめて見て感動したダンスの躍動感みたいなものがあります。
高校生の時に、クラブみたいなところでダンスバトルを見たんですけれど、それを見た時の衝撃が忘れられなくて。暗い場所で、聞いたこともない低音で、そこで人が輪になって真ん中でバトルしてるみたいな感じだったんですが、それがめちゃくちゃかっこよくて。その体験や衝撃みたいなものをテクノロジーでどう生み出すかみたいな、”生”の良さを表現したいという意識があります。
だから、自分は「映像」で完結する作品は作らないですね。映画に感動した人はきっと映像で表現をするんだと思います。一方で、自分は、生(ナマ)で見たダンスとかに感動して今があるので、生で起きてること、ライブで目の前で見て感じた、そういった感覚をどうやって作り出すのかみたいなテーマが、一番自分の中でベースにあるのかもしれません。
ーー今後も、アートとエンターテイメントなどの領域を切り分けることなく、様々な分野をまたいで活動されていくのでしょうか。
最近までは、自分は様々な分野をかなり幅広くやっていると思っていたんですよ。アート作品を作ったり、自分がパフォーマーとしてアメリカのテレビ番組に出たり。
でも、先日、メディアアーティストの岩井俊雄さん※1や八谷和彦さん※2とお話する機会があって、改めて二人の過去の作品を見直してみたら断然幅が広かったんです。それに比べたら、自分は全然幅が狭かったなって気づいて。だから最近は、もっと幅広く、何でもやりたいなと考えています。
今まで自分はパフォーマンスしかできないと思っていたんですけれど、もっと幅を広げていかないといけないって。今のアーティストって、お金の問題とかもあると思うんですけど、個々のやることが狭くなっていってるようにも感じていて。NFTをやる人はNFTだけ、ロボットをやる人はロボットだけ…みたいに特化していて。自分も、自分で思っていたほど幅が広くなかった事に気づいたので、デザインやプロデュース、コラボレーションとか、もっといろんなことができるんじゃないかなと思って、今やっています。
ーー今後の活動の広がりも楽しみです!ありがとうございました。
インタビューを通じ、MPLUSPLUSと藤本さんの作品は一貫して「身体性」や「躍動感」といった要素への興味がベースとなっていること、また、それらの作品は映像制作とは全く違った考え方で、リアルな場での”生”の体験へのこだわりを持って制作されていることが感じられました。
こうした作品に生で触れられるプログラム「MPLUSPLUS「Embodiment++」」は、2023年11月19日まで渋谷のシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]で開催されています。ぜひ、これらの作品を生で体験してみてください。
※1岩井俊雄さん: メディアアーティスト、絵本作家。メディアアートの先駆者として、テレビ番組『ウゴウゴルーガ』、三鷹の森ジブリ美術館「トトロぴょんぴょん」、ニンテンドーDS『エレクトロプランクトン』、ヤマハとの電子楽器『TENORI-ON』をはじめ、様々な作品を手がける。2006年より、絵本作家としての活動を開始。(引用元:https://ccbt.rekibun.or.jp/players/iwai-toshio)
※2八谷和彦さん:メディアアーティスト。東京藝術大学先端芸術表現科 教授。主な作品に「視聴覚交換マシン」や「ポストペット」などのコミュニケーションツールや、ジェットエンジン付きスケートボード「エアボード」やメーヴェの実機を作ってみるプロジェクト「オープンスカイ」など。(引用元:https://ccbt.rekibun.or.jp/players/hachiya-kazuhiko)
展覧会情報
MPLUSPLUS「Embodiment++」
公式サイト https://ccbt.rekibun.or.jp/events/mplusplus-embodiment
会期 2023年9月16日(土)〜11月19日(日)
休館日 月曜休館(祝日の場合は開館、翌平日休館)
開館時間 13:00~19:00 ※ロボットアームによるパフォーマンスは45分毎に上演します。
会場 シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
観覧料 無料