2021年のパラリンピックの開会式や、2023年のWBC日本戦のオープンイベントといった華やかなステージ。そのステージで、音・映像・光による個性的な演出を手掛けてきたのは、MPLUSPLUS(エムプラスプラス)というクリエイティブチームです。
そのMPLUSPLUSによる、テクノロジーとステージパフォーマンスを融合した表現と、新しい身体表現の可能性を追求する作品を紹介するプログラムが渋谷で開催されています。
この記事では、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]で開催中のMPLUSPLUS「Embodiment++」をご紹介します。
パフォーマンスの表現を広げる MPLUSPLUS 10年間の作品群
MPLUSPLUS(エムプラスプラス)とは?
MPLUSPLUSは、演出家や振付家、クリエイター、エンジニアなどが集合し、音・映像・光によるステージ演出で活躍するクリエイティブチーム。今年で活動10周年を迎えます。EXILEやAKB48のLEDを用いたステージ演出や、「アメリカズ・ゴット・タレント」での光るリボンを使ったパフォーマンスも話題になり、意識せずともその作品は目にしているかもしれません。
LEDをつかったパフォーマンスのためのプロダクト
会場でまず私たちを迎えてくれるのは、巨大でフレキシブルな布状のディスプレイ。世界初のLEDドローンディスプレイシステムのディスプレイ部分です。6.8M×2.6Mという迫力のサイズながら重さは11kgと軽く、ドローンで持ち上げて空飛ぶ映像を表現できます。
展覧会の会場は大きく2つのエリアに分かれ、1つ目のエリアでは、MPLUSPLUSの10年間に作られたプロダクトが紹介されています。なんと、この展示エリアの中だけで、10万粒以上のLEDが用いられているそう。
そのプロダクトは、例えば、全身にLEDで数字が表示される衣服や、映像を表示させながら持ち運びできるスーツケースに旗やはっぴなど。キャプションもLEDで表示されています。5分に1回ほど、音楽に合わせて会場のすべてのプロダクトが連動した演出も行われ、目を引きます。
一見、LEDの「ディスプレイ」が並ぶようですが、プロダクトはすべて身につけたり、手に持ってパフォーマンスをすることができるもの。すべて演出表現のためのプロダクトなんですね。実際のステージの映像も紹介されていますが、動く光や映像と、パフォーマンスが組み合わさることで、パフォーマンスの表現の幅が広がるようすが伝わってきます。
実際に旗を持ってみたり、はっぴを着てみたり、LEDで絵を描いたりと体験できるのも楽しいので、ぜひ会場で手に取ってみてください。
ロボットによって 人がまだ見たことのない身体表現をつくる 藤本実さんによるインスタレーション
もうひとつの展示エリアでは、MPLUSPLUS代表・藤本実さん個人による新作インスタレーション 3作品が展開されます。
大きな時計の前で開始を待っていると「ご案内を申し上げます。本作品はロボットによるパフォーマンスです。」と、舞台開演前の注意のようなアナウンスが。ところが、アナウンスの音声は徐々に音楽と一体化していき、時計の大きな針は超高速で、まるでパフォーマンスをするように動き始めます。
この《Humanized Clock》は、人間の腕や足と同程度のサイズ感ながら、人間より圧倒的に「速い」動きによる表現を追求したもの。あまりにも大きく速い動きは、CGの映像を見ているような現実感のない光景にも見えてきます。
続く《Robotic Choreographer》は、全長で5Mほどになる、大きな腕のようなバーをもったロボット。こちらも大きく高速な動きですが、さらにその動きには優雅さも感じられます。非常に高い精度で動きを制御できるというこのロボットの特徴から作り出せる動きなのだそうです。
自分よりも大きなロボットが目の前でダイナミックに動き回るのは、少し恐怖も感じるほどのインパクトがあるのと同時に、2台のロボットが息の合ったダンスをしているようで、その素早く滑らかな動きにも目が釘付けになります。
一転し、《Light-emitting Existence》は、暗闇の中を小さな光が動き回る作品。まるでピーターパンに登場する小さな妖精・ティンカーベルが自在に飛び回っているような静かな「気配」が感じられる作品です。
暗闇で回転運動をしていた光が、突然思いもよらない場所に瞬間移動するように見えたり、急に逆回転するように動いたりと、予想できない動きからは、まるで、意思を持った小さな生きものがそこにいるようにも感じられます。
これらの新作は、会期中にアップデートが行われていくそうです。会期中に複数回訪問してその変化も楽しみたいですね。
「人間の身体をアップデートする」方法とは?
人が身につけることで表現を広げる前半の作品と、人が不在でロボットだけがパフォーマンスを行う後半の作品は、一見全く違った考え方にも見えます。なぜ、新作ではロボットによるパフォーマンスを演出されたのでしょうか?新作について、藤本さんは、以下の様にお話をされていました。
ロボットを作るときって、できるだけ人間に近づけようという発想が多いと思うんですけれど、今回は『人間をはるかに超える能力を持ったロボット』を作ることによって、人間がそれにインスパイアされ、人間をアップデートさせることができるんじゃないかというテーマで作っています。
例えば《Humanized Clock》は、人間の腕よりも長い棒が高速で動けるんだったら、ひょっとしたら人間も動けるようになるんじゃないかという発想で、人間の身体を拡張することを考えて作りました。
人が不在のパフォーマンスであっても、その先にある「人間の身体をアップデートする」という発想は、前半のLEDの作品とつながっているんですね。
それでも、人とは違った形のロボットに、ダンスのような動きを作っていくのは難しそうです。
こんな動きをさせようと思って入力しても、動かしてみると、まず思った動きとは全然違った動きになります。シミュレーション上ではピタッと止まるのに、実際はバーの部分が跳ねてしまったりとか。じゃあ、この跳ねる動きをうまく活かして躍動感が出ないかと考えたりして、最初に思っていた通りにできた作品は一回もないかもしれません。
でも、人間が新しいダンスの動きを考えても、自分の枠の中にある振付の組み合わせになってしまいますが、ロボットを使うと人間とは全然違った想像できない動きや形が出てきます。そうした動きをどう扱ったらいいんだろうと考えると頭が活性化しますね。
人の腕や足の動きを連想させながらも、全く違った動きのできるロボットによって、人間の動きや表現の幅がさらに広がっていくのかもしれませんね。
LEDを使ってパフォーマンスの可能性を広げる表現にも、新しいデバイスやロボットを通じて「身体を拡張する」という考えにも、それから、人の動きを超えた新しい動きや表現にも触れられるプログラムです。
人間の動きを超える新しい身体表現の可能性を、会場で体験してみませんか?
展覧会情報
MPLUSPLUS「Embodiment++」
公式サイト https://ccbt.rekibun.or.jp/events/mplusplus-embodiment
会期 2023年9月16日(土)〜11月19日(日)
休館日 月曜休館(祝日の場合は開館、翌平日休館)
開館時間 13:00~19:00
会場 シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
観覧料 無料