大画面のスクリーンで見る映画や、スマホの小さなディスプレイで見る動画サイト、それにVRゴーグルを被って見る立体的な映像まで、わたしたちは毎日さまざまな装置で「映像」を目にしていますよね。
毎日あまり意識せずに目にしているものの、実は様々な技術と表現が詰まった「映像」。そんな、アート&テクノロジーの基本である「映像」のしくみや原理を「体験」「発見」し、「つくる」ことができるプレイグラウンドが、渋谷で開催されています。
この記事では、東京・渋谷にあるCCBTで開催中の「岩井俊雄ディレクション『メディアアート・スタディーズ 2023 :眼と遊ぶ』」をご紹介します。
映像はどうやって生まれたの? 19世紀の視覚装置を触って体験
展示の始まりは、【体験しよう】のコーナーから。
現代では毎日のように目にする「映像」ですが、その起源は1820年代頃。意外に最近?という感じもしますね。会場では、19世紀につくられた様々な視覚装置が紹介されています。しかも、貴重なものは、今回の展示にあわせて再制作がおこなわれ、なんとほぼ全ての装置を、触って体験することができるんです。
例えば、「フェナキスティスコープ」は、1832年に発明された初期のアニメーション装置。スリットの入った円盤に絵が描かれ、スリットをのぞきながら、鏡ごしに絵を見ると、画像が連続的に動いているように見えます。
「静止画像を高速で切り替えることで、動きを再現する」という、現代のアニメーションや映像技術の先駆けである装置です。
また「キノーラ」は、1895年につくられた装置で、ハンドルを回すと、500枚の写真がめくられ、パラパラマンガのように映像を楽しむことができるというもの。「フェナキスティスコープ」などと比べると、長い映像を楽しめるようになりますね。
「オンブロチネマ」は、静止画が描かれたシートと、その上にストライプの透明シートを重ねたもの。シートを動かし、ストライプにあわせて絵が切り替わって見えることで、絵が動いているように見えます。
こちらの装置はオルゴールと連動していて、絵の描かれたシートが動くのと同時に音楽が流れるのも面白いところ。「映像」に「音」がつくことで生まれる楽しさも感じられます。
こうした19世紀の映像装置に加え、会場では、メディアアーティスト、絵本作家でもあり、今回の展示の総合ディレクションを手掛ける岩井俊雄さんの私物である映像のおもちゃコレクションも展示。電気を使わなくても「映像」が楽しめる、アナログな映像おもちゃの面白さも体験できます。
日本のメディアアートを切り拓いた 岩井俊雄さんの作品展示
【体験しよう】のコーナーでは、19世紀の視覚装置に加え、それらの原理を発展させて制作された岩井俊雄さんの作品も展示されています。
例えば《ステップ・モーション》 (1990) は、ステッピング・モーターというモーターを使い、回転と止まる動きを素早く繰り返すことで絵が動いているように見える作品。「フェナキスティスコープ」と似ていますが、スリットがなくても動きが見え、大人数で一緒に映像を体験できますね。
また、続く【発見しよう】のコーナーでは、岩井俊雄さんの初期代表作であり、1985年から1990年の間に制作されたメディアアート作品「時間層」シリーズの3作品が修復&再現され、約25年ぶりに展示されています。
作品の制作から30年以上経ち、コンピューターや映像装置も大きく変わってきていますが、「制作当時に近い状態で再生することを目標に」再生されたそうです。
そのうちの1つ《時間層Ⅳ》(1990) は、大きな井戸のようなかたちをした作品。のぞき込んだ中には、3層に重ねた透明な円盤の上に、CGで作成した数百枚の絵が貼り付けられています。そこに三色のビデオプロジェクターで光を落とすと、点滅する光によってそれぞれの絵が動いて見える作品です。影が落ちるため、より浮遊感も感じられます。
側面の一部は、今回の再制作で透明な板に変更し、機構も理解しやすくなっています。でも、頭でしくみは理解出来ても、物質として動きがある面白さと、映像の軽やかさの間にあるような心地よさや、不思議な浮遊感は、私たちが普段目にする「映像」とは全く違った体験です。
復元された3作品とも、写真や動画で見るのとは全く違った映像体験です。ぜひ会場でご覧ください。
映像づくりを体験できるコーナーも
最後に、この展示では、【体験しよう】のコーナーで体験した「フェナキスティスコープ」と「ソーマトロープ」という視覚装置を作れるコーナーも用意されています。こちらは申し込み無しでいつでも参加可能。
フェナキスティスコープをみんなに作ってもらおうと、今回、岩井俊雄さんが考案した《花のおどろきばん》では、用意されたシートに絵を描いていきますが、シールを貼るだけでも動く絵をつくることができます。「自分でも作ってみたいけれど、絵が苦手…」という方でも気負わずに制作を体験できますね。
木の棒を組み立てて、実際にフェナキスティスコープの形で鏡に映して見ることもできれば、カメラを使って動きをシミュレーションすることも可能。だれでも気軽に楽しめます。
映像のしくみを体験しながら理解し、そのしくみを発展させたアートを鑑賞し、自分の手でもつくることができる「岩井俊雄ディレクション「メディアアート・スタディーズ 2023 :眼と遊ぶ」」。おとなもこどもも楽しめる”遊び場”で、映像の面白さを体験してみませんか。
展覧会情報
岩井俊雄ディレクション「メディアアート・スタディーズ 2023 :眼と遊ぶ」
公式サイト https://ccbt.rekibun.or.jp/events/playingwithyoureyes
会期 2023年7月7日(金)~8月20日(日)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館、翌平日)
開館時間 13:00~19:00
会場 シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
観覧料 無料