邸宅の空間に輝く 魅惑の「アートグラス」の世界へ|フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン (東京都庭園美術館)

ぷらいまり
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2023.07.08

フィンランドと言えば、何を思い浮かべますか?ムーミンにサウナ、それから、かわいくて洗練されたデザインの日用品。日常使いのテーブルウェアのデザインも人気ですが、そうしたデザインとはまた違う、フィンランドの「アートグラス」に注目した展覧会が開催されています。

この記事では、デザイナーと職人のコラボレーションによって生まれたアートグラスを、緑に囲まれた邸宅の空間で楽しむ展覧会「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」 (東京都庭園美術館)をご紹介します。

写真撮影:ぷらいまり
写真撮影:ぷらいまり

デザイナーと職人との共創から生まれる「アートグラス」

この展覧会は、「デザイン大国」とも呼ばれるフィンランドの、1930年代から現代までの8名のデザイナーによるアートグラス作品を展示するもの。

アートグラスとは、フィンランドのガラス製品の中でも、質とデザイン性の両方で高級志向の製品のこと。今回の展覧会ではこうした「アートグラス」と、デザイナーが現場に立ち会って制作された独自性の高い「ユニークピース」のガラス作品が展示されています。

《サヴォイ》/ アルヴァ・アアルト (1937年)(写真撮影:ぷらいまり)
《サヴォイ》/ アルヴァ・アアルト (1937年)(写真撮影:ぷらいまり)

例えば、会場に入ってすぐに出迎えてくれるのは、フィンランドの有名な建築家でありデザイナーのアルヴァ・アアルトによる《サヴォイ》という花器。アアルト自身はガラス製法についての知識は無かったそうですが、その先入観のない想像力によって1930年代に発表された後、ガラス製作所での長年にわたる制作技術の改良によって、1954年に連続生産されるようになり現在までいたるそうです。

左から、《白樺の森》/ グンネル・ニューマン (1946年)、《円錐》/ グンネル・ニューマン (1946-47年)、《ストリーマー》/ グンネル・ニューマン (1947年)(写真撮影:ぷらいまり)
左から、《白樺の森》/ グンネル・ニューマン (1946年)、《円錐》/ グンネル・ニューマン (1946-47年)、《ストリーマー》/ グンネル・ニューマン (1947年)(写真撮影:ぷらいまり)

一方、デザイナーでありつつ、ガラスの素材を熟知し「この素材でなければ表現できないフォルムと手法」を追求してきたのはグンネル・ニューマン。無色透明なガラスの中に乳白色の硝子でつくったリボン状のスパイラルと空洞を透過させて見せる《ストリーマー》や、宙吹きという手法で段階的にガラスを重ねて花のつぼみのような形状を表現した《円錐》など、熟練の職人とコラボレーションし、ガラスの特性を活かした斬新なデザインを実現しています。

《プリズム》/ カイ・フランク (1953年-56年)(写真撮影:ぷらいまり)
《プリズム》/ カイ・フランク (1953年-56年)(写真撮影:ぷらいまり)

日常づかいのプロダクトも制作しつつ、素材の実験的な調合を行うなど、ガラスの加工技術を革新的に進めたカイ・フランクの《プリズム》は、ガラスの表面に別の色のガラスの層を薄く重ねた「フラッシュ技法」と、別の色ガラスの層を厚くかぶせる「被せガラス」の2つの技法を駆使して制作された作品。ガラスを透過する光の色が複雑に混ざり合い、見る角度、光の当たり方で複雑な表情を見せます。

職人による伝統的な技法と、実験的な新しい技法を組み合わせながら、斬新で美しいデザインを実現したガラスのアートは繊細で、ぜひ会場で本物を体験したい作品ばかりです。

アールデコの邸宅空間の中で見るガラスのアート

この展覧会の会場である東京都庭園美術館は、1933年に建設されたアール・デコ様式の建築とその空間、そして、広大な庭園を活かした美術館。この邸宅空間とアートガラスとのコラボレーションも展覧会の見所です。

大きな窓から光の差し込む「大食堂」での展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
大きな窓から光の差し込む「大食堂」での展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

邸宅内の壁紙や家具、大きな窓から差し込む光と庭園の風景など、ホワイトキューブの空間で観るのとは違った楽しみ方ができます。

《夢へのゲートウェイ》/ ティモ・サルパネヴァ (1981年)(写真撮影:ぷらいまり)
《夢へのゲートウェイ》/ ティモ・サルパネヴァ (1981年)(写真撮影:ぷらいまり)

例えば、部屋の窓際に展示されたティモ・サルパネヴァの《夢へのゲートウェイ》は、窓から差し込む日差しと庭園の景色も取り込むような作品。様々なサイズの気泡を封入したガラスにエッジの効いたカットを施した作品を通して観る庭園の緑の風景と、外から差し込んだ光が作品を透過して作り出す光と影。作品と景色の双方がその見え方に影響を与えているようにも感じられます。

《アートグラス》/ タピオ・ヴィルッカラ (1950年)(写真撮影:ぷらいまり)
《アートグラス》/ タピオ・ヴィルッカラ (1950年)(写真撮影:ぷらいまり)

一方、窓のない薄暗い室内に照明で浮かび上がるのは、氷とガラスの類似性に魅了され、氷からインスピレーションを得たデザインを繰り返し制作したというタピオ・ヴィルッカラの《アートグラス》。水のように澄んだ透明性の高い鉛クリスタルガラスで制作された作品は照明の光を美しく屈折させ、部屋全体を幻想的な空間にしています。

《カラー》/ グンネル・ニューマン (1946年)、「大客室」での展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
《カラー》/ グンネル・ニューマン (1946年)、「大客室」での展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

この展覧会では、美術館の本館の一部と新館で写真撮影も可能です。作品と建築がコラボレーションする空間を写真に収めるのも良いですね。

アートグラスから感じる、日本とフィンランドの感性の近さ

作品を観ていくと、とても繊細なデザインであるのとともに、モチーフに樹木や動物などの自然のモチーフを取り入れたものが多く見られることに気づきます。フィンランドは自然とのつながりが強く、それらがデザインに取り入れられているようです。

左から《シエッポ》/ オイヴァ・トイッカ (1971年)、《松の樹、ユニークピース》/ オイヴァ・トイッカ (1970年代)(写真撮影:ぷらいまり)
左から《シエッポ》/ オイヴァ・トイッカ (1971年)、《松の樹、ユニークピース》/ オイヴァ・トイッカ (1970年代)(写真撮影:ぷらいまり)

例えば、フィンランドガラスの黄金時代を築いた作家であるオイヴァ・トイッカの《松の樹、ユニークピース》は、樹木をモチーフにした作品。コンクリートの上に直接ガラスを垂らした後に枝の形の下部を付けて引き上げるという特殊な方法で制作されたという作品は、有機的な形状で、光を通すと葉脈のような複雑な模様が浮かび上がります。

《ヤマシギ》/ カイ・フランク (1953年)(写真撮影:ぷらいまり)
《ヤマシギ》/ カイ・フランク (1953年)(写真撮影:ぷらいまり)

カイ・フランクによる《ヤマシギ》は、手のひらに載るほどのサイズのかわいらしい作品ですが、ころんとした形状に、鳥の羽毛は小さな気泡で、細長いくちばしも引き延ばしたガラスで見事に表現されています。

《杏茸》/ タピオ・ヴィルッカラ (1946年)(写真撮影:ぷらいまり)
《杏茸》/ タピオ・ヴィルッカラ (1946年)(写真撮影:ぷらいまり)

タピオ・ヴィルッカラの《杏茸》は、フィンランドの森林に自生し、親しまれているキノコを有機的な曲面のガラスと、繊細な線彫りで表現されています。

こうした繊細さや、自然と共存する感覚、アシンメトリーな造形に美しさを感じる点などは、日本の感覚とも近いようにも感じられます。フィンランドのデザインが日本で人気があるのは、地理的には離れていても、近い感性を持っているからかもしれませんね。

(写真撮影:ぷらいまり)
写真撮影:ぷらいまり

なお、今回の展覧会では、小学生以下の方には先着でお土産としてオリジナル折り紙のプレゼントもあります。そのポリエステル製の透明な折り紙では、先ほどご紹介したカイ・フランクの《ヤマシギ》を作ることができちゃうんです。おうちに帰ってからも楽しめるのって嬉しいですね。

新館展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
新館展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

緑の美しい庭園に囲まれた美術館で、デザイナーと職人のコラボレーションから生まれる魅惑の「グラスアート」の世界を体験してみませんか?

展覧会情報

フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン
公式サイト https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/230624-0903_FinnishGlassArt.html
会期    2023年6月24日(土)–9月3日(日)
会場    東京都庭園美術館(本館+新館)
休館    毎週月曜日 (ただし、7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間  10:00–18:00(入館は閉館の30分前まで)

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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