所沢にある「角川武蔵野ミュージアム」のロビーに現れた不思議なオブジェ。切断された車に冷蔵庫やベッド、ソファなどのいかにも重そうな工業製品が不安定に積み上げられ、街灯によって串刺しにされています。
これが「現代アート」といわれても、意味はよくわからないけれど、わたしたちの「当たり前」を崩してしまう光景が目の前に現れるのはなんだか面白くて、ついつい気になってしまいますよね。
そんな「現代アートは気になるけれど、よくわからないなぁ……」という想いからスタートして、日本を代表する現代アートコレクションを作った人がいるんです。そして、そのコレクションを、もっと作品が身近に感じられるような解説や展示方法で紹介する展覧会がこの角川武蔵野ミュージアムで開催されています。
この記事では、世界の最先端の本格的な現代アートコレクションを、少し変わった角度から紹介する展覧会「タグコレ 現代アートはわからんね」をご紹介します。
1) 現代アートとの出会いは「未知との遭遇」?真っ暗な展示室でアートと出会う
地下にある会場に入ってまず驚くのが、真っ暗な展示室!現代アートの展覧会といえば「ホワイトキューブ」と呼ばれる、白い壁の明るい空間で行われることが多いですが、それとは全く異なる印象です。そんな暗闇の空間内に作品が様々な方向を向いて設置され、スポットライトに浮かび上がっています。
美術館での一般的な展示とは全く違った雰囲気ですが、暗闇に浮かび上がる作品ひとつひとつに自然と目がひきつけられ、展示室を散策しながら、作品ひとつひとつと”遭遇”するような気分になります。
これらの作品は、実業家である田口弘さんがコレクションした作品を起点としたもの。田口さん自身は、もともとは現代アートとまったく縁のなかった昭和のビジネスマンで、田口さんの現代アートとの出会いは、まさに「未知との遭遇」だったそうです。
会場には50点を超える国内外のアーティストによる作品が展示されています。アンディ・ウォーホルのように誰もが名前を知っているような著名なアーティストの作品もあれば、ここで初めて見るアーティストの作品もあるかもしれません。1980年代末から収集された多くの作品からは、時代と共に変化していくアートの世界にも触れられるようです。
2) 「わからない」から「おもしろい」に近づく、さまざまな視点からの解説
この展覧会でもうひとつ独特なのが、解説文。美術館では、作品の隣に小さな文字で作品タイトルや解説文が書かれていることが多いですが、この展覧会では、大きな文字で書かれた解説文が高い位置に掲げられ、遠くからでも読みやすく展示されています。
これらの解説文は「アートコレクター」の田口弘さん・田口美和さん、「ギャラリスト」の塩原将志さん、「キュレーター」の神野真吾さんと、立場の違う4人の中から2名ずつの言葉で構成されています。それぞれの違った視点から書かれた解説文は、作品やアーティストについての解説だけでなく、「その作品が欲しいと思った理由」や「その作品をオススメしたポイント」、さらには「作品の価格」や「購入した時のエピソード」まで。
美術館で現代アートの解説を読むと「抽象的でよくわからないなぁ…」なんて思ってしまうこともありますが、それは「アートとは感性によって受け取るもので、文字情報などの知識によって理解させるのは本質的ではない」という考え方が根強いからだとも言われています。でも、こうした平易な言葉による複数の視点からの解説からとっかかりが生まれることで、作品をより面白く見られるかもしれません。
3) 「アートコレクター」が作品を購入する理由とは?作品をめぐるストーリーにも注目
この展示を構成するのは、田口弘さんがミスミ社長在職時に企業で収集した「ミスミ・コレクション」と、その後に開始した個人コレクション「タグチアートコレクション(タグコレ)」。「タグチアートコレクション」は、現在、田口さんの長女である田口美和さんに引き継がれ、約650点(2022年10月末時点)から構成されています。
解説の中では、それぞれの作品をコレクションするまでの想いやストーリーも紹介されています。「なぜその作品が欲しいと思ったのか?」といった、個人的な視点からは、作品がもっと身近に感じられるかもしれません。
こうした解説の中で印象に残ったのが、「この作品を日本に持っていきたい」「みんなに見てもらいたい」といった言葉。「コレクター」といっても、作品を収集する目的は人それぞれですが、田口さんがコレクションをはじめた契機は「会社にかけて皆に見てもらいたい」「そのイノベーションの感覚を感じ取ってもらいたい」というもの。このため、個人コレクションでありながらも、公開することを前提に収集が行われてきたといいます。
また、2世代にわたって収集された作品は、「現代アート」とひとことでいっても多岐にわたり、特に近年収集された作品では、貧困や差別、暴力、ジェンダーなど社会の様々な課題がテーマとして多く扱われています。そうした、時代とともに変化するアートの様子が楽しめるのも、まさに今わたしたちの生きる時代に制作されている現代アートの面白さですね。
会場入り口には、こんな言葉が書かれていました。
わからないけれどおもしろい」「わからないけれど好き」。そういう気持ちで接していると、かえって少しずつわかってくるものです。
展示されている作品は、決して「わかりやすい」作品ではありませんが、すぐにはわからなくても、気になるなぁ…と頭の片隅に留めておくことで、徐々に自分の知識や体験とつながり、「わかる」に近づいていくのかもしれませんね。
「タグコレ 現代アートはわからんね」展は、2023年05月07日(日)まで、角川武蔵野ミュージアム1階 グランドギャラリーで開催されています。
展覧会情報
タグコレ 現代アートはわからんね
公式サイト https://kadcul.com/tagukore
会期 2023年2月4日 (土) 〜 5月7日 (日)
時間 10:00 〜 18:00
休館日 第 1・3・5 火曜日
※金曜・土曜は21:00 まで開館。
※最終入館時間は閉館時間の30分前。
※休館日が祝日の場合は開館・翌日閉館。
※祝日開館時の営業時間は該当する曜日に準じます。
※開館日・時間は変更される場合もございます。
※休館日の最新情報は公式ウェブサイトをご確認ください。
会場 角川武蔵野ミュージアム 1階グランドギャラリー
チケット料金
一般(大学生以上) オンライン購入:1,800円、当日窓口購入:2,000円
中高生 オンライン購入:1,300円 当日窓口購入:1,500円
保護者同伴の小学生・未就学児 無 料
※保護者1名につき小学生2名まで無料でご入場いただけます。