ここ1年ほどで、オンライン上で楽しめる展覧会がぐっと増えましたね。現実の展覧会の様子をそのままオンライン上にアーカイブしたものもあれば、「ナンスカ」でもご紹介した「多層世界の中のもうひとつのミュージアム——ハイパーICCへようこそ」や「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」のように、実空間とオンラインでは異なる鑑賞体験になる展覧会も。
そんな中、新たにバーチャル空間ならではのアートイベントが開催されています。この記事では、バーチャルミュージアム「アルスくんとテクネちゃん パラレル・アートパーク」をご紹介します。
テレビ番組の世界観・現実の宮下公園をバーチャル空間内に再現
タイトルになっている「アルスくんとテクネちゃん」は、テレビ朝日で放送されている(現在は休止中)アート番組。若手現代アート作家を毎週1組ピックアップし、その作品と、アーティストの視点や挑戦を紹介しています。
では、早速オンライン展覧会に入ってみましょう。他のユーザーと一緒にルームに入室できる「パブリック」モードか 自分1人or友人を招待して楽しめる「プライベート」モードを選択。アバターを選択して名前を付けたら入室。番組ナビゲーターの「アルスくん」や「テクネちゃん」のアバターで、まさに番組の世界観に入り込めます。
入室すると、そこはまさに渋谷の「宮下公園」。アートやカルチャーの発信拠点として親しまれている渋谷区立宮下公園を拡張したバーチャル空間「渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE」が、今回の会場。パラレルに存在するもう一つの宮下公園は、24時間365日オープン。誰もが空間のオーナーとなって、自由に表現し、それぞれの体験を生み出すことができるようになっています。
バーチャル空間ならではの作品が楽しめるアートイベント
それでは、さっそく中を散策していきましょう!今回の展覧会では、今注目の女性アーティスト3人の作品が公開されています。
吉野もも
壁や地面、ブロックなど、一見奥行きが感じられるのに、近づくとそこに厚みは存在しない。そんな、視覚トリックのような不思議さを感じさせるのは、美術家・吉野ももさんの作品。
普段はキャンバスなどの平面に、立体感のある作品を描く吉野さん。今回は、デジタル空間上での展示にあわせ、過去に制作した平面作品や、近年下絵として利用している3Dモデルを、現実の宮下公園にある建築物や、仮想の環境と干渉し合うように、バーチャル空間上に立体的に立ち上げたといいます。広い芝生の広場や、公園内に実在するホテルの大きな建築物までもが、吉野さんの作品として再構成されています。
リアルな作品とは違った様々な角度から作品を見たり、作品に入り込むことができたりといったバーチャルならではの体験ができる一方、立体感のある作品に実は”厚み”が存在しない不思議さは、リアルな作品と同じように感じられる鑑賞体験です。
藤倉麻子
ピンクの岩、黄色い巨大なオブジェ、公園の外に見える荒々しい岩山… 宮下公園の風景を全く違った風景に変容させるのは、ビビッドな色づかいでCGの街をつくりだすアーティスト・藤倉麻子さんの作品。山や岩、工場、街灯などがにぎやかに配置されたその世界に存在するものたちは、私たちがふだん目にすることのない色と動きにあふれています。
「渋谷の街の一部をある時間帯、まるごと裏のレイヤーに連れていく」というご本人のコメントのとおり、それは確かに宮下公園の風景でありながら、現実とは違った宮下公園の一日が展開されている、あるかもしれないもうひとつの世界を体験できるような作品です。
公園内に立つ複数の黄色いスピーカーに近づくとそれぞれ異なる音が聞こえてきたり、公園の外に広がる風景までも楽しめたりと、バーチャルな空間でありながらもその中に自分が入り込んで「散策」しているように感じられます。
横山奈美
暗く静かな空間の中で光彩を放つのは、ネオン管…? 本物のライトのようにも見えますが、こちらは、ネオン管をリアルに描き出す画家・横山奈美さんの作品。
本当に発光しているような明るさや、複雑に反射する光の様子が本当にリアルに描き出されていますが、これは、実際にその形のネオン管を作成してそれを見ながら描いているのだそう。ネオンのガラス管は「言葉の形」、背後に存在する配電線やフレームは「言葉の意味」を表しているといいます。
絵画という「物質」を扱う横山さんにとって、このバーチャル空間での展示は難しい問題だったといいます。現実の空間に存在する重さや大きさといった制約のないバーチャルの世界ですが、今回はその空間にあえて、絵画を支えるための構造や、絵画を取り付ける金具などバーチャル空間に必要のない要素を作り込むことにより、絵画とは何かを改めて問いかける空間を作ることを考えられたそう。
絵画の掛けられたフェンスの裏側に回り込むと、絵画の裏側の木組みやキャンバスそのものの布地、そして、金具といった、普段はなかなか見られない部分を見ることができ、絵画作品の物質感を感じることができます。
オンラインならではの交流も
オンラインならではの、三者三様の作品を楽しむことができる本展覧会。作品だけではなく、鑑賞でも仮想空間ならではの楽しみ方があります。
例えば、バーチャル空間の中での写真撮影をすることができ、アバターを使って作品と一緒に「自撮り」をすることができちゃいます。また、ボイスチャットに参加したり、展覧会限定デザインのスタンプで自身の感情を表現したりと、友人と一緒に鑑賞しながらコミュニケーションを楽しむこともできます。
ここ1年ほど、なかなか人と会いづらくなっていますが、こんな方法なら、気軽に友人達と一緒に展覧会を鑑賞することもできますね。
バーチャル空間ならではの新しい展覧会の楽しみ方にあふれた「アルスくんとテクネちゃん パラレル・アートパーク」、是非一度ご覧ください。
展覧会情報
アルスくんとテクネちゃん パラレル・アートパーク
会場URL https://shibuya-miyashitapark.parallel-city.jp/project/parallell-art-park/
会期 2021年10月20日〜2022年3月31日
料金 無料
※推奨動作環境 : PC、スマートフォンのブラウザで利用できます。
【PC】 CPU Core i7以上(Intel CPUの第7世代以降、またはそれと同等以上のパフォーマンスのもの)、メモリ(RAM)8GB以上、推奨ブラウザ:Google Chrome
【スマートフォン】
・iPhone : iPhoneX(iOS14)以降、推奨ブラウザ・safari
・Android : Android10以降、メモリ(RAM)4GB以上、推奨ブラウザ・Google Chrome