「義足」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?様々な理由で足を切断したり、先天的に足がない方の身体を支える道具ですが、義足を利用する方々の中にはそれを隠したがる方も多いのだそう。そんななか、服や靴と同じように「身につけることを楽しめる」よう、個性を持たせる挑戦がなされています。
この記事では、「義足」を通してそこに関わる人や社会に目を向ける展覧会「社会のダイバーシティを考える 立つ、歩く、走る―義足でこえる心の壁」をご紹介します。
「身につけることを楽しむ」義足を目指す、義肢装具士たちの取り組み
「義足」ってどんなものか、ぱっとイメージできますか?展示では、まず、義足ができるまでを、実物と映像で紹介しています。
映像の中に登場する義肢装具士の臼井二美男さんは、熟練した職人技と一対一のコミュニケーションを通して、ユーザーひとりひとりの身体にフィットする義足づくりに取り組んでいます。
義足は、ひとりひとりの身体に合わせたオーダーメイド。使う人のことを考える「想像力」によってそのできあがりが変わってくるのだそうです。例えば、身体に合わせるだけでなく、「ぴったりとしたズボンをはきたい」といった所有者のリクエストに合わせて、その作りをすこしずつ変えているそう。
でも、多くの方は、義足を他の方に見せる事はせず、家族であっても隠したがるのだとか。洋服でおしゃれを楽しむように「身につける喜び」を感じられるよう、臼井さんたちは個性を持たせるチャレンジをしているそうです。
日常からスポーツまで、多様な義足のかたち
続くコーナーには、さまざまな種類の義足が並びます。
実際の足に似せて作られた「日常用義足」に、シャープな形状の「スポーツ用義足」、そして、アクセサリーのように彩られた義足まで、さまざまな機能と外観の義足が並びます。
例えば、女性用の義足では、かかとの高さを調節してハイヒールを履くことができるようにしたり、素材を工夫してより実際の肌に近づけたりと、おしゃれを楽しみやすい義足もつくられています。
また、義足の方々の写真を撮影し続けている写真家・越智貴雄さんの手がける「切断ヴィーナス」プロジェクトでは、病気や事故で足を切断し義足を使用するアスリート・アーティスト・OLなど、義足であることを臆せず隠さずにいる方々の義足の”着こなし”を撮影し、それぞれの方の魅力を引き出しています。
よりリアルに・義足であることを意識せずにおしゃれが楽しめるようにする選択肢も、義足であることを隠さずに新しい身体の魅力を見せる選択肢も、どちらも“選択”できるようになって欲しいですね。
多様な義足をもっと身近に。デザインからのアプローチ
さて、こちらは金属光沢が美しくまるで彫刻作品のようですが、こちらも義足なんです。
東京大学の山中俊治研究室では、13年前に「美しい義足」プロジェクトをはじめました。その当時のことを、デザインエンジニアの山中俊治さんは「もっとも驚いたことには、義足をデザインしている人がいないということでした。」と振り返っています。
義肢装具士の臼井二美男さんと出会い、協力をしながら新しい義足の開発をすすめ、そのいくつかは実用にも至っているそうです。
それは見た目の美しさや機能性だけでなく、「マス・カスタマイゼーション」という考え方のもと、「義足用モデリングソフトウェア」や「3D プリンター」という新しい技術を用いて、ひとりひとりに適した美しい義足を、より多くの人に届けることを目指しています。
つい美しい”見た目”に目が行ってしまいますが、ひとりひとりにあったものを、より多くの人に届けることが出来る、デザインからのアプローチなんですね。
「障がい」というのは、身体的状況そのものより、社会の中で生まれる不自由や心理的な壁です。
と展示のなかに書かれていました。困りごとを解決するのは、ひとつはこの展示のような「道具」から、そして、もうひとつは自分たちがお互いの差異を知って歩み寄っていく「意識」からなのかもしれませんね。
「社会のダイバーシティを考える 立つ、歩く、走る―義足でこえる心の壁」展は、Gallery A4 で2021年8月5日まで。事前予約制で開館しています。
展覧会情報
社会のダイバーシティを考える 立つ、歩く、走る―義足でこえる心の壁
展覧会URL http://www.a-quad.jp/exhibition/exhibition.html
会場 Gallery A4
会期 2021.6.11 fri – 2021.8.5 thu
休館日 日・祝、7/24(土) 休館
時間 平日10時~18時(土曜・最終日は17時まで)