いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。
この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回はパナソニック汐留美術館で開催中の「香りの器 高砂コレクション 展」をご紹介します。
もはや芸術品。小さな器に込められた繊細で華やかな美の世界
この展覧会の主役は、「香り」にまつわる器たち。古代オリエントの香油壺から近代ヨーロッパの香水瓶、日本の香道の道具類など、時代や場所は変わっても、そのほとんどは手のひらにおさまるほどの小さな器です。一方、形状やコスト的な制約があまり受けないため、小さな中にも見る人を魅了して止まない緻密な美の世界が広がっています。
特に17世紀に入ると、アルコールによる精油の抽出がおこなわれるようになり、香水文化が一気に開花。マイセンによる人や動物を象ったかわいらしい人形のような容器や、ウェッジウッドによる繊細なレリーフ彫刻を型押しした容器など、陶磁器による個性的で優美な香水瓶の数々に魅了されます。
19世紀以降にはガラス製の香水瓶も数多く登場。エミール・ガレやドーム兄弟らのガラス作家たちの香水瓶には、自由な発想と創造性があふれます。
20世紀に入ると、ガラス作家の多くが香水瓶の制作を手がけるようになり、特にルネ・ラリックは香水メーカーの依頼だけでなく自分個人の作品としての香水瓶のシリーズも制作していくなど、1点ものの芸術品作品とも呼べるような香水瓶たちが登場します。
小さな瓶に凝縮された繊細な美の世界。思わずため息がもれてしまいます。
古代から20世紀まで、「香り」と人との関わりを知る
これらの「香りの器」は、香料メーカーである高砂香料工業株式会社が長年にわたり収集してきたコレクション。今回の展示で最も古いものは、なんと紀元前10世紀にまでさかのぼります。
古代メソポタミアやエジプトでは、宗教的な儀式の中で香油や乳香、没薬などが使われただけでなく、王や貴族らが生活の中でも用いていたと考えられるなど、香料は昔から重要な素材だったんですね。
太古の時代から、石器や陶器など様々な素材でそれらの器は制作されてきましたが、特に紀元前に制作されたガラス製の器は、2000年以上の時間を経ることで表面が銀化という化学変化を起こし、まるでクジャクの羽根のような魅惑的な色を発しています。長い時を経てきたからこそ醸し出される美しさがあるんですね。
一方、日本では仏教が伝来した6世紀以降に香りの歴史が始まったとされます。紀元前からの歴史を持つ古代オリエントやその影響を受けたヨーロッパ諸国と比べ、日本の香りへの関心は決して早かったとはいえないながらも、日本の香り文化は瞬く間に開花し、他国にはない独自の展開を見せるようになります。
繊細な蒔絵を施された明治時代の香道具箱や、有線七宝の技法で装飾された香炉など、ここで用いられる道具も西洋とは違うのが興味深いですね。こちらもまた、小さい道具の中に繊細で華やかな表現が展開されています。
各時代の美意識を反映した特別出品作品も
会場では、高砂コレクションに加え、国内の美術館から「香水瓶を携える貴婦人の肖像画」や、マリー・ローランサンによる名画、アール・デコ時代の瀟洒な椅子や照明器具が特別出品作品として追加されます。
小さな器の上で展開される繊細な美の世界に出会いに行ってみませんか?
「香りの器 高砂コレクション 展」、東京展は2021年3月21日(日)までです。
展覧会情報
香りの器 高砂コレクション 展
公式サイト https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/21/210109/index.html
会期 2021年1月9日(土) ~3月21日(日)開館時間 午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
※3月5日(金)は夜間開館 午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)
(新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2月5日の夜間開館を中止させていただきます。)
休館日 水曜日
入館料 一般:1,000円、65歳以上:900円、大学生:700円、中・高校生:500円、小学生以下:無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。