いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。
この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。
今回ご紹介するのは、東京都庭園美術館で開催中の「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」展。東京都庭園美術館は築87年の、アール・デコ様式の建築が美しい美術館。そんな歴史ある建築のなかで行われる”現代アート”の展覧会とはどんな展覧会なのでしょう?
建物自体が”アール・デコの美術品”のような 東京都庭園美術館
東京都庭園美術館は、目黒にある国立科学博物館附属自然教育園に隣接する美術館。木々に囲まれた長いアプローチを通り建物に到着します。1933年に旧朝香宮邸として建設され、1983年より美術館として開館。建物自体が”アール・デコの美術品”とも称され、国の重要文化財にも指定されています。
そもそも”アール・デコ”って何でしょう? 1920年〜1930年代に盛んにつかわれた様式で、鉄筋コンクリートや新しい鋳造法でつくる薄く大きなガラスなど、当時の新しい素材や技術を取入れたモダンな建築であり、そこにジグザグ線や放射線、流線型、円弧模様などの装飾性を加えたスタイルを指すそうです。幾何学的なタイルやテラコッタ、多角形や円形の窓、壁の凹凸やレリーフでの装飾などもその特徴。東京都庭園美術館の中は、壁や家具、照明までもがその様式に合わせてデザインされています。
建築や歴史と共鳴する 個性的な現代アート作品
その庭園美術館の中で開催されているのが、「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」展。日本の現代アーティスト8名による展覧会です。“現代アートは、装飾のないホワイトキューブが似合うのでは?”といった先入観を壊してくれるような展覧会です。それでは、その作品の一部を見てみましょう。
淺井裕介
エントランスを入ってすぐの「大広間」の重厚な空間には、巨大な絵画と立体作品。落ち着いた広大な空間に合う色合いのその絵画は”土”と”鹿の血”で描かれています。泥で描かれた《この島にはまだ言葉がありませんでした》の中央に、猟師とともに淺井さん自身が野山に分け入って仕留めた鹿の血で描いた《野生の星》という2つの絵画が組み合わされたものです。
木の枝のようにも見える冠状の床面の立体作品は蝦夷鹿の角でつくられたもの。その上には土でペインティングが施されています。角のひとつひとつが動物や植物のようで、新しい生命が立ち上がっているように見えてきます。動物や植物が土にかえり、そこから生命のバトンが繋がれていくような様子が感じられます。
加藤泉
大きな円形を描いた開放的な張り出し窓、植物模様のレリーフが一面にあしらわれた壁面。来賓客用の「大食堂」として使われた華やかな部屋に展示されているのは、加藤泉さんによる胎児のようにも見えるモチーフの絵画と立体作品。装飾的な空間と、単純化されたような形状で描かれた絵画・荒々しさも残る彫刻作品は、対照的なようにも見えます。でも、おおらかな優雅さをもったその部屋のなかに原始的な雰囲気をも醸し出す作品が置かれることで、建物と作品の双方の魅力的引き立つようにも見える不思議な空間です。
小林正人
大広間から続く「第一階段」をのぼった先にある「二階広間」では、大きな丸い照明の下に、光り輝くような巨大な黄色い三角形の作品が置かれています。小林正人さんの《unnamed #66》。キャンバスが「四角い」ものであるという概念を覆し、さらに床部分にはフレームがなく、空間に作品が染み出してきているようにも感じられます。
客間を中心としフランス仕立ての空間であった1階に対し、2階は家族の居室であり”日本のアール・デコ”の空間。こちらの広間の壁面には道具を使って引っ掻いたような模様づけが均一に施され、壁面自体が大きなキャンバスのようにも見えてきます。ところどころに日本の伝統様式が取り入れられ、左官職人による匠の技を見ることもできます。
緑に囲まれた美術館で、自然とのつながりを考える
今回の展覧会は、「生命の庭」というタイトルにもあるとおり、“緑豊かな自然に囲まれた旧朝香宮邸を舞台に、日本を代表する8人の現代作家たちの作品を通して、人間と自然との関係性を問い直す試み”。自然科学や宇宙的なものを想起させる作品が並びます。
山口啓介
「次間 (つぎのま) 」の光が差し込む大きなガラス窓一面をカラフルに覆うのは、山口啓介さんによる《香水塔と花箱》。
そのタイル状作品ひとつひとつは音楽用の「カセットケース」の中に植物を樹脂で封入したもの。それは、自然の中で長い時間をかけて樹脂となった琥珀の中に太古の動植物が閉じ込められている様子をイメージさせるものでもあり、人工的に採取・分類された標本箱もイメージさせます。
このカセットプラントの中でひときわ鮮やかな色合いを放つ作品に近づくと、それは造花であることに気づきます。ここでも“人工”と“自然”のグラデーションが表されているように感じられます。
青木美歌
部屋ごとに意匠が凝らされた照明が設置されたなかでも特に印象的な、5つのボール状の照明を有する「妃殿下居間」。こちらの部屋に展示されているのは、ガラスを中心とした透明な素材での作品を制作されている青木美歌さんの作品。
ガラスの作品ひとつひとつは、粘菌や花粉、ウィルスのような顕微鏡の中の世界を表したようにも見えます。その一方で、照明に照らされてできた作品の影はまるで、惑星の軌道や星座のような、宇宙的な世界にも見えてきます。ミクロとマクロの自然が一部屋の中に共存する空間です。
このほか、山や海へのフィールドワークの記憶をもとにその風景をモチーフとする作品を制作してきた康夏奈さん、自然の風景をまるで砂糖細工のように真っ白な漆喰で描いた「アイシング彫刻」のシリーズを展開する佐々木愛さん、忘れ去られゆくものを映像によって捉えようとする志村信裕さんと、自然をテーマとしつつ、建築の空間とも向き合うような作品が並びます。
建物自体も魅力的な美術館のなかで、作品ひとつひとつをじっくりと、感覚を研ぎ澄ませながら見ていくような展覧会です。
「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」展は、東京都庭園美術館で2021年1月12日(火)までです。
※参考図書
「旧朝香宮邸のアール・デコ」 / 編集 東京都庭園美術館
「アール・デコ建築意匠 朝香宮邸の美と技法」/ 編集 東京都庭園美術館
展覧会情報
生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙
展覧会URL https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/201017-210112_GardenOfLife.html
会期 2020年10月17日(土)– 2021年1月12日(火)
会場 東京都庭園美術館(本館+新館)東京都港区白金台5-21-9
休館日 毎月第2・第4水曜日(10/28、11/11、25、12/9、23)、および年末年始(12/28-1/4)
開館時間 10:00–18:00
※入館は閉館の30分前まで
観覧料(当日) 一般 1000円、大学生(専修・各種専門学校含む) 800円、中学生・高校生 500円、65歳以上 500円
※小学生以下および都内在住在学の中学生は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその介護者2名は無料