モノクロのマーブル模様のような写真。石の模様?それとも細胞?「何」が写っているのか、一目見ただけではわかりません。
品川にあるキヤノンギャラリー Sで開催中の「中西敏貴写真展:Kamuy」に展示されている作品です。「アイヌの人々の自然との共存の道」を写真によって表現した写真展とのことですが、この写真とテーマはどうつながっているのでしょうか?
独自の視点で切り取られた“美しさ”
「アイヌの人々」「北海道の自然」、そんなキーワードを想像しながら会場に入ると、違和感を感じるかもしれません。会場に並ぶのは抽象画のようにも感じられるような、一見「何」が写っているのかよくわからない写真。タイトルもなく、それが「何」なのかを探る手がかりには足りません。
でも不思議なことに、その被写体が何なのかはわからなくても、写真の中の質感や画面全体の構成の面白さに、じっと見入ってしまい、それが何であるのかは気にならなくなっていきます。
そうして見入っているうちに、例えば最初に挙げた写真も「水面に映り込んだ景色を撮影したものかもしれない?」と、その被写体がゆっくりと見えてきます。(実際は溜池に映り込んだ木々の写真なのだそうです。)
特別な被写体だから良いのではなく、目の前にあるものから何を見つけてどう切り取るのか。その人にしか見つけられない視点の面白さを感じられます。
「目に見えない自然の中のただならぬ気配をビジュアル化したい」
これらの作品を撮影された中西敏貴さんは、8年前から北海道の美瑛に在住されている写真家。2年前から、「目に見えない自然の中のただならぬ気配」をビジュアル化したいと考え始めたといいます。
その土地柄、ダイヤモンドダストや虹など、いわゆる「絶景写真」と呼ばれるような美しい風景は「狙えば撮影できる」そう。でも、狙って撮影することができる、自分の想定した通りの”綺麗”な風景を撮影するのではなく、アイヌの方々がどこに「Kamuy」をみてきたのか?を考えるようになっていったと言います。
苔や粘菌のような小さなものを画面いっぱいに大きく撮影したり、木のような大きなものをぽつんと小さく見えるように撮影したり。こうして「人の常識を覆し、わざと観る人の脳を混乱させることができるのも写真のメリット」だと中西さんは語ります。このようにしてわたしたちの「常識」を揺るがすのは、自然世界を構成する「要素」に目を向けさせる仕掛けでもあるそうです。
「美しい風景」を写すのではなく、そこにある風景の中から自分が「美しい」と思えるものを探し出す。風景写真でありながら「ファウンド・オブジェ」のようにも感じられます。
自然の“気配”を感じる展覧会場
今回の展覧会場は照明が落とされていて、薄暗いなかに大判の写真が浮かび上がって見えます。また、アイヌの重要なカムイであるふくろうの声が響き、まるで、夜の森の中を歩き回っているような気分になります。
すぐには「何」かがわからない写真に囲まれているうちに、写真に写った目にも見える影の部分から「視線」のようなものを感じたり、平面の写真の中に動きや奥行きを感じたり。自然の「気配」を感じられます。
COVID-19の影響で人がいるところに撮影に行けないなか、中西さんはひたすら森のなかを歩いたといいます。そこで撮影された写真の中で自然の気配や自然とのつながりを感じられるのは、こうした中西さんの体験を追体験しているということのかもしれません。写真を「観ている」というよりも「体験している」ように感じられる展覧会になっています。
中西敏貴さんによる展覧会のトークイベントの動画も公開されています。写真展の制作物デザインを手掛けられたアートディレクターの三村漢氏をゲストに迎え、写真展ができるまでの秘話などをお話しされています。
今回の展覧会に展示されている作品は、写真集「カムイ」に収められ、会場でも販売されています。
手にとってめくる写真集と体感する会場。それぞれに異なった魅力があるので、ぜひ会場に足を運んでみてください。
展覧会情報
中西敏貴写真展「Kamuy」
公式サイト https://cweb.canon.jp/gallery/archive/nakanishi-kamuy/index.html
開催日程 2020年9月19日(土)~10月31日(土)
開館時間 10時~17時30分
休館日 日曜日・祝日
開催会場 キヤノンギャラリー S(住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階)
交通案内 JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行品川駅より徒歩約10分
入場料 無料