いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。
この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは、パナソニック汐留美術館で開催中の「特別企画 和巧絶佳展 令和時代の超工芸」。
1970年代以降生まれの12人の作家を紹介するこちらの展覧会。日本の伝統的な工芸の技法に、現代の技術と感性を掛け合わせて生まれる作品とは、どのような作品なのでしょうか?
伝統工芸×先端技術で生まれる新しい表現
漆黒の立方体の上に刻まれた、カラフルでメタリックな数字。サイバー感のあるこちらの作品は、なんと漆と螺鈿、蒔絵でつくられたもの。その数字1つの大きさはわずか2mm程度。
池田晃将さんによる《不可振賽子飾箱》です。デジタル風の数字が敷き詰められているのとともに、その色目の違いを利用して、同じ数字のサイコロの目も浮かび上がって見えます。この細かい数字は、レーザーカッターによって鮑貝や夜光貝を切り出し、ひとつひとつ漆で貼っています。伝統的な技法に最新の技術と現代的なモチーフを掛け合わせて作り出される作品は、工芸のイメージを覆してしまいます。
西洋的な頭骸骨をモチーフにしたこちらの作品。ぐっと近づいてみると、驚くほど薄く、精密につくられた花びらのモチーフの集合であることに気づきます。神聖さも感じさせる深みのある白い素材はアルミニウム。
髙橋賢悟さんは、生花を原型として鋳型をつくる「現物鋳造」という方法と、真空にした型に金属を流し入れ、瞬時に加圧することで精密な鋳造を可能にする「真空加圧鋳造」という方法で独自に改良を重ね、0.1mmという驚異的な薄さの造形を可能にしました。わすれな草の小さな花をベースにしてつくられたアルミの頭蓋骨は、西洋的なモチーフでありながらも、自然と共生する日本的な自然観も感じられるようです。
独自の技法でつくりだす三次元の表現
水の音まで聞こえてきそうなほどリアルに木枠の中で涼しげに泳ぐ金魚たち。一瞬の風景を切り取ったように見えるこちらの作品は、深堀隆介さんによる《百舟》。
1匹ずつの金魚は立体的に見えますが、金魚は立体ではなく平面に描かれたもの。透明樹脂にアクリル絵の具で絵を描き、その上にさらに透明樹脂を流し込んで固めて絵を描き…を繰り返すことによって立体的に見せるという、3Dプリンタのような描き方で立体感を出しています。生き生きとたくさんの金魚が泳ぐ水槽と、仕切られたもう一方の槽には、たくさんの落ち葉に混じって朽ちた金魚の姿も。一瞬を静止させたような風景の中に、生と死、季節の移ろいのような時間の軸も感じられる作品です。
金箔や銀箔を焼き合わせた後、細く切ったものを貼り合わせて文様を表現する截金(きりかね)をガラスの中に封じ込めるという独自の「截金ガラス」の手法で作品を制作されているのは山本茜さん。繊細で薄くい模様が多面体のガラスに封じ込められ、ガラスの反射や屈折により、覗く角度によって様々な表情を見せます。
繊細な手わざと現代の感性が融合
真ん中が大きく窪んでいるのに、目の錯覚で2つ窪みがあるようにも見えてしまうようなこちらの器は、見附正康さんによる九谷焼の作品。
図柄の細かい部分は、1mm幅のなかに何本もの線が描かれていて、肉眼では捉えられないほどです。赤絵細描という伝統的な技法を使いながらも、見附さん独自の文様を描き、赤色を基調にした描写でありながらも立体感を感じさせます。この細描は器の内側だけでなく、外側にも施されているので、ぜひ会場でぐるりとご覧になってみてください。
レースのような繊細な模様が美しいこちらの磁器は、多治見でやきものを学び、光と磁器の関係性を追求していると言う新里明士さんの作品《光器》。「蛍手」という、器に穴を開けその上に透明釉をかけて焼き上げる技法で磁器を制作されています。器の置かれた高さまで視点を下げると、天井からの明かりが柔らかく器を透け、穴の密度による光のグラデーションが生まれます。
展覧会タイトルにある「超工芸」という言葉からは、思わず「超絶技巧」といった言葉を想像してしまい、実際に緻密な加工が施された作品が並びますが、それだけではなく今までの工芸のイメージを刷新するような作品が並ぶ展覧会でした。写真では伝わりきらないこの作品の迫力は、ぜひ会場でご覧になってください。
今後、web上で参加作家の方々によるトークイベントも予定されています。
「特別企画 和巧絶佳展 令和時代の超工芸」は2020年9月22日までです。
展覧会情報
特別企画 和巧絶佳展令和時代の超工芸
公式サイト https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/20/200718/index.html
会期 2020年7月18日(土)~9月22日(火・祝)
時間 10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日 7月22日(水)、8月12日(水)~14日(金)、8月19日(水)、9月9日(水)、9月16日(水)
入館料 一般:1,000円、65歳以上:900円、大学生:700円、中・高校生:500円、小学生以下:無料
※9月4日(金)は夜間開館 午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)
※ 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、7月、8月の夜間開館を中止させていただきます。
※ 新型コロナウイルス感染症防止策として、展示室内のお客様人数を制限させていただきます。 制限人数に達しましたら、以降整理券を発行し入館時間を指定させていただきます。なお万が一、当日の整理券をすべて発行した場合はご入館いただけない場合もありますのでご了承願います。