いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。
この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは、3年に一度、横浜で開催される現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2020」。
世界各地から約70組のアーティストが参加する中から、あなたの「当たり前フィルター」を外してくれるかもしれない作品を紹介します。
まずは注目作品を押さえたい
早速会場の横浜美術館に向かうと、美術館はすっぽりと布に覆われて、「本当に開館しているの?」と少し不安になります。実はこれも作品のひとつ。丹下健三さんによる荘厳な建築のイメージも、布1枚で大きく印象を変えられてしまうんですね。
横浜美術館に入ると、吹き抜けのエントランスの天井から床まで、きらきらとしたたくさんのカラフルな飾りが吊るされています。アメリカの庭用飾りをモチーフにしたもので、風で回転すると目の錯覚で変形するようにも見える動きも楽しく、また、鏡面の床に映り込む様子も幻想的。でも、その中にはひっそりと銃などのモチーフも。美しいもののなかにある「毒」を示しているようです。
今回のアーティスティック・ディレクターは、インド出身の3人組のアーティスト、ラクス・メディア・コレクティヴ。作品が「わかりやすい」という事に疑問を持ち、「わからない」を楽しむということもテーマとした今回の展示では、解説文も詩のような文章でやや難解です。でも、「わからない」から逃げずに考えを広げ、自分なりの解釈を楽しんで良いというメッセージでもあるようです。
例えば、会場内でも目を引くエヴァ・ファブレガスの《からみあい》という作品。触ることのできる巨大な立体作品です。触ってみるとバランスボールのようにムニムニとした触感が心地よく、見た目の柔らかい色合いも楽しいです。作者は健康器具に着想を得て”気持ちいい形”を表現しようとしたとのことですが、ラクスはその形状から人間の「腸」を連想。善玉菌や悪玉菌が共生する世界を発想して今回の展示に組み込んだそうです。ディレクター自ら、作者の思惑とは違った発想で作品を楽しんでも良いと示してくれているようですね。
それでは 横浜美術館の展示室へ
さて、巨大な抽象画のようにも、航空写真のようにも見えるこちらの作品。一体何でしょう?
近づいてみると、今度は組紐のような工芸品のようにも見えてきます。
この素材は「再生された導線」。このほかにも、廃棄されたキーボードや基盤を素材に、ユニークな画面を形成した作品が並びます。かつては ”クリエイティブのためのツール”や、その“成果を保存するためのツール”であったかもしれないデバイスも、解体されるとそれ自体は役にたたない廃棄物になってしまいます。その一方で、廃棄物であったはずのこれらを分類して並べることで新しいクリエイティブな作品になる。同じモノも、使い方や捉え方でその価値が変わって見えるようです。そういえば電子基板の中には金や銀などのレアメタルが残っており、「都市鉱山」とも呼ばれたりしますね。ゴミか宝か、発想の転換を見せてくれるような作品です。
さらにその隣に展示された蛇のような作品。黒々とした作品に電気が灯ると、カラフルに輝き始めます。しゃぼんのようなカラフルな色は、絵具のような“色素”ではなく“光の干渉”を利用したもの。1枚1枚のうろこ状のパーツが各々動くことによってその色合いと模様が変化し続けますが、その物理的な音と動きは生き物のよう。色素はないのにカラフル、機械的な外観でありながら生き物のようにも見えてくる作品です。(毎時30分から15分間点灯)
展示室外の作品にも注目
展示室ではない場所にあるので見落としそうになってしまいますが、「当たり前」を揺るがしてくれる作品の一つが、美術館の休憩室にある メイク・オア・ブレイク(レベッカ・ギャロ&コニー・アンテス)による《橋を気にかける》。横浜にある橋の欄干をモチーフにした鋼板に、鑑賞者が横浜の川や水路で採集された塩水を吹きかけていきます。
塩水をかけたら錆びてしまうのに、「気にかける(ケアする)」なんて矛盾したようにも感じますが、作者はケアする行為は「ときに腐食、減衰、破壊をもたらし、物の質を奪い去る」と捕らえているようです。それは、美術館に収蔵されていく作品のことを喩えているようにも。優しさのつもりでしていることが逆の結果を生んでしまうかもしれないと、そんな怖さも感じてしまいます。
また、横浜美術館の隣にある旧レストランの中にも作品があります。先祖伝来の紙細工とストップモーションを使った映像は呪術的な雰囲気も感じつつ、その世界観に心地よく引き込まれる作品です。かつてのレストランの厨房を使ったインスタレーションも非日常の世界に誘ってくれます。こちらもぜひお見逃しなく。
「プロット48」会場にもオススメ作品が
最後に、私が特にオススメしたいのが、もう1つの会場 プロット48での飯川雄大《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》。1組20分、予約制の体験展示です。
案内されたのは何もない行き止まりの部屋。説明や道具もなく「では体験開始です!」と言われ、「…えっ?!」と困惑。どうやら自分で道を探して次の展示室に進んでいくようで、戸惑いながら何もない部屋の壁や扉を押したり引いたり。
「ここから通り抜けられそう!」と目についてアプローチした箇所に裏切られたり、一方では他の参加者の目の付け所で通り抜けることができたりと、自分が縛られている先入観を思い知らされます。同時に、建物とじっくり向き合っているうちに、普段なら気にしないかもしれない建物の壁紙を剥がした跡や床の色目の違いなど、”作品”とは違った面白さがある事にも気づき始めます。
ゴールまでたどり着いた後、同じ建物の中でも体験前には気づかなかった面白さが目に入るようになり、先入観を捨てて身の回りのものに目を向ける「感度」が少しだけ高くなったようにも感じました。
やや難解な作品も多いヨコハマトリエンナーレ2020ですが、「わからない」を楽しみながら、「光の破片をつかまえる」ように、自分にとって輝く作品をつかまえに行って見てはいかがでしょうか?
展覧会情報
ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」
公式サイト https://www.yokohamatriennale.jp
会期 2020年7月17日(金)-10月11日(日)
毎週木曜日休場(7/23、8/13、10/8を除く)、開場日数78日
会場 横浜美術館 横浜市西区みなとみらい3-4-1
プロット48 横浜市西区みなとみらい4-3-1(みなとみらい21中央地区48街区)
※下記会場でも作品の展示がございます。
日本郵船歴史博物館 横浜市中区海岸通3-9
開場時間 10:00-18:00
※10/2(金)、10/3(土)、10/8(木)、10/9(金)、10/10(土)は21:00まで開場
※会期最終日の10/11(日)は20:00まで開場
入館料 一般 2,000円、大学生・専門学校生 1,200円、高校生 800円、中学生以下無料(事前予約不要)
※チケットは、日時指定の予約制です。
https://www.yokohamatriennale.jp/2020/ticket/