「山にある木の本数を数えてこい」と言われた豊臣秀吉。どう乗り切った?~逸話から数学の「写像」を知ろう~

みのきち
みのきち
2022.01.15

普段、私たちが見ているこの世界。
ほんの少しだけ「数学」を知ってみると、意外な奥行きが見えてくるかもしれません。

今回のテーマは「個数を数える」です。

子どもの頃から当たり前に行っている「数える」という作業。実は、意外と奥深いんです!

山にある木の本数は何本?

日常の中で私たちは、「個数を数える」ことをよく行っています。

例えば、買い物で「玉ねぎ3個と、ニンジン2本を買おう」というときも、目視で品物の個数を数えていますよね。

普段、当たり前に行っていることなので、なにも難しいことはないように感じます。

しかし、「たくさんあるもの」や「数えにくいもの」となると、そう簡単にはいきません。それを示す、豊臣秀吉のこんな逸話があります。

秀吉が織田信長に仕えていた頃の話です。

秀吉は信長から「山にある木の本数を数えて来なさい」と言われました。

写真: https://unsplash.com/

山にはたくさんの木がある上、整列してきれいに並んではおらず、非常に数えにくいです。しかも、どの木も似ているため、重複して数えてしまう恐れもあります。

そのため、たくさんの人数で手分けして数えたとしても、正確な本数を把握するのは至難の業です。

しかし、ここで秀吉は見事な機転を利かせます。

まず、紐を十分な本数用意し、その紐の本数を確認します。そして、1本の木に、1本の紐をくくりつけていったのです。全ての木に紐をくくりつけ終えたら、手元に残っている紐の本数を確認します。

例えば、最初に500本の紐を用意した場合、手元に25本の紐が残ったとしたら、500-25=475本が山の木の本数であることがわかります。

さすが秀吉!見事な方法ですね!

対応関係をつくる……数学の「写像」とは?

秀吉の賢かったところは「木そのものを直接数えなかったところ」です。

「木1本」と「紐1本」を対応させて、紐の本数を数えることにより、間接的に木の本数を把握していました。

写真: https://unsplash.com/

秀吉のケースのように、数えにくい対象を数える場合、「対応関係」をつくることで、うまく数えられることがあります。

例えば、遊園地の来園者数を数えるとき、人の数を直接数えることはしないはずです。券売機で購入されたチケットの枚数などから、来園者数を把握していることが多いでしょう。

各チケットにナンバーが振られているとすると、

Aさん → チケットNo.1
Bさん → チケットNo.2
Cさん → チケットNo.3
Dさん → チケットNo.4

といった具合で、「来園者1人」と「チケット1枚」を対応させて、来園者数を数えているのです。

このような「対応関係をつくる」という考え方は、数学における「写像」というものに通じています。

写像とは、すごく簡単に言うと、「あるモノを、ある1つのモノに結びつける対応」のことです。

例えば、

1→5   (1に5を対応させる)
2→10 (2に10を対応させる)
3→15 (3に15を対応させる)
4→20 (4に20を対応させる)
5→25 (5に25を対応させる)

のような「5倍して対応させる」というのも、写像の1つです。

中学校や高校では、このような対応関係を\(y=5x\)と書いて、「関数」という言葉で表現していましたよね。実は、このような関数も写像の1つなのです。
(※正確には、写像では「どの集合からどの集合への写像か?」を明示する必要があります。中学や高校で扱う関数は、実数から実数への写像であることが多いです。)

また、「写像」は、英語で「map」や「mapping」といいます。確かに、地図(マップ)では「地図上の場所」と「実際の場所」を結び付け、きちんと対応させなければならないですよね。

「写像」は個数の把握に便利!

写像は、個数の把握に便利です。簡単な例から、その理由を探ってみましょう。

写真: https://unsplash.com/

まず、赤と青と黄の三色の紐が一本ずつと、スギとヒノキとマツの三種類の木が一本ずつあるとしましょう。

{赤,青,黄}から{スギ,ヒノキ,マツ}への写像の一例として

赤→スギ
青→ヒノキ
黄→マツ

が考えられます。

きれいな1対1の対応関係になっていますよね。秀吉の例で言うと、スギに赤の紐、ヒノキに青の紐、マツに黄の紐がくくりつけられている状態です。三本の木に、一本ずつ紐がくくりつけられているため、秀吉の狙い通りですね。

では、次に、赤と青と黄の三色の紐が一本ずつと、スギとヒノキの二種類の木が一本ずつあるとしましょう。

{赤,青,黄}から{スギ,ヒノキ}への写像の一例として

赤→スギ
青→ヒノキ
黄→スギ

が考えられます。

先ほどと違い、1対1の対応関係にはなっておらず、赤と黄の2つがスギと対応してしまっています。秀吉の例で言うと、スギに赤と黄の2本の紐がくくりつけられ、ヒノキに青の紐がくくりつけられている状態です。紐が過剰となっていますね。

最後に、赤と青の二色の紐が一本ずつと、スギとヒノキとマツの三種類の木が一本ずつあるとしましょう。

{赤,青}から{スギ,ヒノキ,マツ}への写像の一例として

赤→スギ
青→ヒノキ

が考えられます。

この場合、「赤→スギ」「青→ヒノキ」は1対1の対応関係になっていますが、マツと対応する紐が存在していません。秀吉の例で言うと、スギに赤の紐、ヒノキに青の紐がくくりつけられていますが、マツには紐がくくりつけられていない状態です。紐が不足していますね。

このように考えると、同じ個数から同じ個数を対応させる場合でないと、最初の例のような「きれいな1対1対応関係」がつくれないであろうことがわかります。

秀吉の方法では、「何本あるかわからない山の木」と「475本の紐」の間に、きれいな1対1の対応関係をつくることで、山の木の本数を把握していましたよね。

この「きれいな1対1の対応関係」こそが、個数を数える上で非常に大切なポイントです。

数学の言葉では、これを「全単射」と言います。つまり、個数を把握するときには、「全単射である写像」が重要なのです。

もちろん、{赤,青,黄}と{スギ,ヒノキ,マツ}のような、目視で簡単に「どちらも3個だ」と数えられる場合は、わざわざ工夫する必要はありません。しかし、秀吉のケースのような、数えにくいものを数えるときには、「全単射である写像」を使って工夫すると、一気に数えやすくなることがあるのです。

特に、数学では「無限集合」という、要素が無限にある集合を頻繁に扱います。例えば、1,2,3,4,5…といった数(正の整数)は無限に存在しますし、偶数や奇数も無限に存在します。

このような「無限に存在するもの」を、直接数えるわけにはいきません。いくら時間をかけても、永遠に数え切ることができないですよね。そのため、写像を使いながら、「この無限集合と、あの無限集合は、同じ個数かどうか?」などを確認していくのです。
(※正確には、無限集合の場合は、「個数」ではなく、「濃度」と表現します)

日常生活では、無限集合について考える機会はなかなかないと思います。しかし、「数えにくいものを数える」ということは、起こるかもしれませんよね。そんなときに、「対応関係」をうまく使うと、秀吉のようにサクッと解決できてしまうかも……?

みのきち
WRITER PROFILE

みのきち

東京生まれ東京育ち。大学と大学院で数学を専攻。最近は、数学の命題をプログラミングして具体例を確かめることにハマっている。入浴剤とドリップコーヒーを集めるのが好き。ドイツ語の勉強中。散歩がてらパン屋を見つけると入ってしまう。

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