波と三角関数の深い関係とは?~水たまりの波紋を眺めながら~

みのきち
みのきち
2021.06.24

普段、私たちが見ているこの世界。
ほんの少しだけ「数学」を知ってみると、意外な奥行きが見えてくるかもしれません。

今回のテーマは「」です。

あなたは「波」と聞くと、何を思い浮かべますか?

「海の波」などの水に関わるものから、「感情の波」のような目に見えないものまで色々ありますよね。

まずは、私たちの身近にある「波」の話からスタートし、「波」に関わる数学の世界を覗いてみましょう!

私たちは「波」に囲まれて生活をしている!?

私たちの身近にある「波」の一つに、水たまりの「波紋」があります。

雨粒が落ちたところを中心に、波紋が円形に広がる様子は、見ていて楽しいですよね。また、複数の雨粒によってつくられる波紋同士が影響し合うことで、織りなされる光景には美しさを感じます。

水たまりの波紋に似た現象は、「浴槽に固形の入浴剤を落としたとき」や「コーヒーに角砂糖を落としたとき」など、水に関わる様々な場面に潜んでいますよね。

そう考えると、「波」という存在が、私たちの身近にあることがわかります。海に行かずとも、私たちは日常の中で、様々な「波」と出会っているのです。

さらに、水に関わるもの以外にも、音も「音波」と言うように、波ですよね。また、光も波としての性質を持っており、「光波」という言葉もあります。他にも、携帯電話などでは「電波」を使っていますよね。

水、音波、光波、電波……こんな風に考えてみると、私たちはまさに、波に囲まれて生活していると言っても過言ではありません。

そして、これらは科学における重要な研究対象。ということは、そこには数学が潜んでいそうですよね!

三角関数がつくり出す「基本の波」

「波と数学」……と聞くと、私が真っ先に思い浮かべるのは「三角関数のサインとコサイン」です。

「三角関数って、『三角』なのに何で波なの?」と思われるかもしれませんが、そのグラフを見れば一目瞭然です。

例えば、\(y=\sin{x}\) (サイン)のグラフを描くと……

built by “Desmos”.

きれいな波が出現しました!まるで「波のお手本」のような形状です。

この \(y=\sin{x}\) で表現される波は「正弦波」と呼ばれるものの一つで、数学に出てくる波の中で、最も代表的なものです。

次に、\(y=\cos{x}\) (コサイン)のグラフを描くと……

built by “Desmos”.

こちらもきれいな波ですね!

この \(y=\cos{x}\) で表現される波は「余弦波」と呼ばれるものの一つで、こちらも有名です。

さらに、これら基本の \(y=\sin{x}\) と \(y=\cos{x}\) という数式を少し改造してグラフを描いてみると、波の揺れを増やしたり減らしたり、振れ幅を広げたり縮めたりすることができます。

例えば、\(y=4\sin{5x}\) のグラフを描くと……

built by “Desmos”.

揺れは増え、波の上下の振れ幅が大きくなりました。

次に、\(y=\frac{3}{4}\cos{\frac{x}{2}}\) のグラフを描くと……

built by “Desmos”.

揺れは減り、波の上下の振れ幅が小さくなりました。

実は、今紹介した「揺れの多い・少ない」や「波の上下の振れ幅」は、波ついての非常に重要な情報なのです。

「周波数」という言葉を聞いたことはありませんか?

最近では機会が減ってしまいましたが、昔はラジオを聴くときに「聴きたい放送局に周波数を合わせる」なんてことをしていましたよね。

この「周波数」というものは、波の「揺れの多い・少ない」と関連しています。ざっくり説明すると、1秒間に波がたくさん細かく揺れているほど、「周波数」の値は大きくなります。

身近な例を挙げると、「音波」における「周波数」は、音の高低に関わっており、揺れが多いほど(周波数が大きいほど)、音は高くなります。

もう一つの重要な情報「波の上下の振れ幅」には、「振幅(しんぷく)」という名前がついています。

身近な例を挙げると、「音波」における「振幅」は、音の大小に関わっており、振幅が大きいほど、音は大きくなります。

波を組み合わせると……!?

では次に、いくつかの三角関数を足し算することで、波を組み合わせてみます。

ちょっと面白い形状が見えてきますよ!

\[
y=\frac{4}{\pi}\sin{x}+\frac{4}{3\pi}\sin3x+\frac{4}{5\pi}\sin{5x}
\]

のグラフを描いてみます。\(\sin{x}\) を少し改造したものを3つ足し合わせたものです。つまり、3種類の波が組み合わさっています。

これは、どうなるかというと……

built by “Desmos”.

ウニョウニョとした面白い形が浮かび上がってきました!歯のようにも見えますね。

では次に、

\[
y=2\sin{x}-\sin{2x}+\frac{2}{3}\sin{3x}
\]

のグラフを描いてみます。これも、\(\sin{x}\) を少し改造したものを3つ足し合わせたものです(途中、引き算が入っていますが、引き算も「負の数を足した」と考えれば、足し算であると見なせます)。先ほどとは違う3種類の波を組み合わせています。

これは、どうなるかというと……

built by “Desmos”.

階段と滑り台が組み合わさったような形状が現れました!ジェットコースターのようにも見えますね。

このように、波を組み合わせることで、様々な形状を表現できるのです。

実は、サインとコサインの組み合わせで表現できる形状のバリエーションは、私たちの想像以上にたくさんあります。今回紹介したのは「サイン3つの足し算」ですが、「サインやコサインを無限に足し算する」ということをすれば、カクカクとした直線的な形状すらも表現することができるのです。

このことは、18世紀後半から19世紀前半に活躍した数学者フーリエの考案した理論に関わっています。

フーリエの理論により、「様々な(周期的な)関数は、三角関数の和で表現できる」ということがわかっているのです。これをざっくりと感覚的に説明すると、「様々な(周期的な関数の)グラフの形状の背後には、正弦波や余弦波が潜んでいる」ということになります。

そう考えると、三角関数の凄味を感じますね!

実は、このフーリエの理論は、「金属の棒に、どのように熱が伝わっていくか?」などを研究する「熱伝導の研究」から生まれたもの。つまり、物理学上、非常に重要な理論なのです。

ここまで知ってしまうと「三角関数って、すごく役に立つんだなあ」と思えますよね!

水たまりの波紋など、私たちの身近にある「波」からスタートし、「三角関数」や「波の組み合わせ」、そして「フーリエの理論」まで話は広がっていきました。ディープな数学や科学の世界を、少しだけ垣間見ることができたのではないでしょうか。

これからは、雨の日にアスファルトの水たまりを見つけたら、ぜひ「三角関数」のことを思い浮かべてみてくださいね。雨の日の景色が、ちょっとだけ変わるかも……!?

補足

実際のところ、フーリエは「ありとあらゆる関数は、三角関数の和で表現できる」と予想しましたが、この予想は議論を巻き起こし、後に様々な検証が行われることになりました。

しかし、

(前略)やばい関数だとフーリエ級数展開できませんが, 応用上登場する関数はだいたいフーリエ級数展開できるのでそんなに気にしなくてOKです。

高校数学の美しい物語「フーリエ級数展開の公式と意味」 より引用(2021/6/3参照)

※著者注:簡単に言うと、「フーリエ級数展開」とは、「三角関数の(無限)和で表現すること」です。

と記述されているように、かなり多くの種類の関数は三角関数の和で表現することができることがわかっています。

※参考文献
●藤田博司「『集合と位相』をなぜ学ぶのか」(技術評論社)
●大阪大学 石島研究室「光の性質,その1」(2021/6/16参照)
https://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/ishijima/microscope-01.html
●NTTドコモ「電波ってなあに?」(2021/6/16参照)
https://www.nttdocomo.co.jp/area/know/
●ヤマハ株式会社「01.音の仕組み」(2021/6/16参照)
https://jp.yamaha.com/products/contents/proaudio/docs/better_sound/part1_01.html
●高校数学の美しい物語「フーリエ級数展開の公式と意味」(2021/6/16参照)
https://manabitimes.jp/math/1156

※グラフ描画に利用したサイト
Desmos https://www.desmos.com/calculator?lang=ja

みのきち
WRITER PROFILE

みのきち

東京生まれ東京育ち。大学と大学院で数学を専攻。最近は、数学の命題をプログラミングして具体例を確かめることにハマっている。入浴剤とドリップコーヒーを集めるのが好き。ドイツ語の勉強中。散歩がてらパン屋を見つけると入ってしまう。

FOLLOW US

RELATED ARTICL

関連記事

SPECIAL

特集

HOT WORDS

CATEGORY

カテゴリ

何気ない毎日に創造性のエッセンスをもたらす日常の「なにそれ?」を集めました。
ちょっとしたアクションで少しだけ視野を広げてみると、新たな発見って実は身近にあるのかも。