いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。
この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは、群馬県前橋市にあるアーツ前橋で開催中の「廣瀬智央 地球はレモンのように青い」展。
ミラノと東京を拠点に活動する廣瀬智央(ひろせ さとし)さんの国内の美術館では20年ぶりとなる大規模個展です。身近にある見慣れたものたちで構成されていながら、作品ひとつひとつが宇宙のような広がりを感じさせる展覧会でした。
嗅覚、触覚… 「視覚」以外の感覚で体感する作品
会場への自動ドアが開いた瞬間、予想もしていなかった鮮やかなレモンの”香り”。吹き抜けになった地下の展示室を覗き込むとそこにはレモンの海が広がります。展示室に降り、架けられたガラスの橋を渡ると、足下いっぱいに広がるレモンの色と香りが鮮烈に飛び込んできます。
廣瀬さんがイタリアのソレント半島で出会ったレモンの香りがこの作品制作のきっかけとなったそうです。写真や映像には残らない”香り”という感覚。この作品を通じて廣瀬さんの驚きや喜びを追体験しているのかもしれません。
このほかにも、ヒノキの香料をまぶしたビーズやスパイスが作品に封じ込まれていたり、羊の毛で織られた巨大な絨毯の上に座ったりと、「視覚」を使うことだけが「鑑賞」ではないことを体感させてくれます。
日常のすぐそばにある小宇宙
レモンをはじめ、塩やペットボトルの蓋など、多くの作品は身近なもので構成されている一方、その中には「宇宙」を想起する作品が多数あります。
例えば、繰り返し登場する<ビーンズコスモス>のシリーズ。アクリル樹脂の中には、豆や丸めた紙、ガラスビーズや木の実、さらには金なども一緒に封入されています。その様子は天体のような浮遊感を感じるとともに、異質な物質が共存している様子は”小宇宙”のようにも感じます。
球体の《ビーンズコスモス(タマ)》と共に展示された中で目を引いた作品は、今回の展覧会のために制作された新作《フォレストボール》。巨大な苔玉のようで全て人工植物で作られています。一方、それとは対照的な、会場中の所々に置かれた小さな球体《種団子》は土と種で作られていて、芽を出して成長しているものも見られます。それら大小の球体の集合は、それ自体が天体のようにも見える一方、1つの作品に近づけばそのなかは小宇宙のようにも感じられる、多義的な作品でした。
美術館の外にも広がる展示
作品は展示室の中に留まりません。アーツ前橋の屋上に置かれた空の看板も、実は2013年に制作された作品。ミラノに住む廣瀬さんと前橋市内の子どもたちが、お互いが見ている空の写真を郵便でやりとりする「空の交換日記」というワークショップを通じて完成させたもの。
今回の展覧会では、会場で手紙を書くと廣瀬さんからメッセージと共に返送いただけるというプロジェクトも行われています。美術館の中にいる時間だけに止まらず、作品が日常の中にも染み出してくるようです。
不思議な展覧会タイトルの表すものは?
それにしても「地球はレモンのように青い」って、不思議なタイトルですね。
シュルレアリスム運動を牽引した詩人ポール・エリュアールの詩の中に「大地(地球)はオレンジのように青い」という言葉があり、今回の展覧会の中にも《地球はオレンジの実のように青い》という写真作品があります。手の中に小さなオレンジの実を収めた写真がモノクロームでプリントされていて、”オレンジの実のように青い”というのは、現実に反したことを言っているのか、まだ青い実なのか、それとも、”オレンジの実が青色ではないのは当たり前だ”というのがただの思い込みなのか、そんなことを考えてしまいます。
「日常のなかで当たり前すぎて足を止めないものが多い中で、あえて足をとめることができるのがアーティスト」だと廣瀬さんは言います。小さな豆から芽が出るように、”当たり前”を破って なんでもないものの中から大きく広がる世界が見えてくるような展覧会でした。
展覧会は2020年7月26日(日)までです。
展覧会情報
廣瀬智央 地球はレモンのように青い
公式サイト http://www.artsmaebashi.jp/?p=14546
会場 アーツ前橋 地下ギャラリー
会期 2020年6月1日(月)~7月26日(日) ※会期変更
時間 10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日 水曜日
料金 一般 500円 / 学生・65歳以上 300円 / 高校生以下無料